【945】第10話 A1 『ハーグ』≫
○オランダ・ハーグ
ハーグの港。
『オランダ・ハーグ』
停泊する船に『ペニンシュラ&オリエンタル社』の文字。
運河や街並みの中にオランダ国旗が見える。
『西暦1854年(安政元年)11月20日』
到着した定期船から乗客たちと共に下船するペリー(60)。
男と従者2名がペリーを出迎える。
男はオーガスト・ベルモント(41)。
ベルモント「遠路お疲れ様でした、御父上」
手を差し出すベルモント。
ペリー「わざわざ出迎えてくれて痛み入りますな、オーガスト」
握手し肩を抱き合う両者。
ベルモント「おめでとうございます、日本との和親条約締結。ビットル提督以下誰もがなしえなかったこと、歴史的快挙ですな」
ペリー「ありがとう。少々疲れたよ。これを以て軍を引退する届を出したところだ。ところで、キャロラインは元気か」
ベルモント「ふふ、貴方の娘は元気どころか、毎日私は怒鳴られていますよ。なにかスポーツでもやらせようかと思ってまして」
ペリー「結構結構。早いものだ、結婚してもう5年か」
再会を喜んだあと、馬車に乗り込む二人。
街中を走り去っていく馬車。
○大邸宅・外観(夜)
博物館のような大邸宅。
○暗い部屋
真っ暗い室内。
所々にランプの明かりがあり、間接照明があたっているところがある。
壁には絵画が飾られ、彫刻などもある。
秘密の儀式をする部屋のようである。
大きなテーブルに、5人の男が座っている。
座っている男のうち、ペリーとベルモントは確認できるが、薄暗いのでそれ以外の顔はよくわからない。
ベルモント「馬の売買はどうです、ジェームス」
ジェームス「馬?ああ、馬か、馬はもう駄目だな、アフリカから持ち出しにくくなっている上、受け入れ先のアメリカでも馬に関する意識が変わってきている。人道的に許されるのか、とな。豊かになったらいっぱしの聖人気取りだ。勝手なもんさ」
ベルモント「愚民の行動は教えのままに」
ジェームス「だから今は捕鯨がメインだ」
ベルモント「デラノ船長、ハーブの方はどうでしょうか」
デラノ「ハーブはいいね、シナでの稼ぎは半端ない、もっとやりたいところだが、ジャーディンマセソンやサッスーンがうるさくてな、好き勝手にはできない」
ベルモント「なるほど、まぁ、英国系の彼らならとりあえずはいいでしょう。ハーブは日本でもいけませんか、父上」
ペリー「何とか条約締結はしたが、貿易となるとまだ時間がかかる。それに・・・、ハーブは日本には難しかろう・・・」
考え込むペリー。
ベルモント「・・・」
ベルモント、隣の男に
ベルモント「こちらの状況をお願いします、カール」
隣の男が話し出す。
カール「去年の母アデルハイト、今年の弟のアレクザンダーの死以降、親父もすっかり伏せってしまっていてな、来年あたりまずいかもしれん。だがナポリはアドルフが、俺はフランクフルトを継ぐことにする、とだけとりあえず言っておく」
ベルモント「了解です、兄貴。欧州ではクリミア戦争、シナでの英仏開戦に対し、わが合衆国は機会がなく申し訳ない。オランダ駐在アメリカ公使であるこの私が来年には民主党党首になりますので、合衆国においてもそのような機会がありましょう。共にボストン財閥を形成するモルガン家・ヴァンダービルト家とも合意済みです」
一同「おおっ」
ジェームス「で、どうやって?」
ベルモント「基本原理は我々が成し遂げたフランス革命と同様です。時の政権に対して市民の自由と解放を謳い上げるのです。『権力を支配している為政者を打倒せよ、そして市民に自由と解放を』。おそらくこれはいかなる民族に対しても、そしておそらくいつの時代になっても通用し得るやり方であると、私は確信しています」
うむ、と一同納得する。
ベルモント、薄暗い明かりに照らされた壁に掛けられた絵を指さす。
みながその絵を見る。
絵はレンブラントの『夜警』。
ベルモント「今日皆がここに集まったのはまさに神の御導き。このレンブラントの『夜警』は、市民の安全を守るのは政府でも主君でも貴族でもない、自分たちで守るのだ、というテーゼが流れています。それがツァーリズム、アンシャンレジームを崩壊させる力となるのです」
納得の表情の3人。
カール「そして誰にも気づかれずに、だが、実際にはさらに強固に支配されることになる・・・、金融という見えない支配者によって・・・か」
にやりと笑うベルモント。
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