開国の父 老中・松平忠固

9月2020

【976】第11話 D4 『崩御』≫

○江戸城・外観
『7月5日』

 

○江戸城・家定寝室・内
中央の布団に家定が横になっている。
布団の周りには6人の奥医師たち。
後ろに側役である石河と側役Aがいる。
医師が家定の脈を取っている。
脈を取っている医師が首を横に降る。
家定の顔に白い布がかけられる。
石河「・・・」
呆然とする石河。
冷たく石河を見る側役A。

 

○忠固邸・門

 

○同・応接間
阿部の脇差が床の間に置かれている。
忠固が石河、本郷と面会している。
脇に水野。
石河「う、上様が先ほど・・・、お亡くなりに・・・」
忠固「な・・・」

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【975】第11話 D3 『挙兵』≫

○鹿児島
噴煙を上げる桜島。
鶴丸城が見える。
声「なに、条約を締結しただと」

 

○鶴丸城・内
桜島を天守から眺めている斉彬。
脇に控える西郷。
使い「去る6月19日です。23日に堀田備中守・松平伊賀守、両名が老中罷免、24日に御老公・越前慶永様、抗議のため不時登城、25日に紀州様が御継嗣と発表・・・」
斉彬「・・・。そ、そこまで急展開しおったか。伊賀守が罷免だと?では堀田も罷免となると誰がこれらを主導しておるのか」
使い「全て台慮の名で行われております」
斉彬「上様の・・・?、それはおかしい。少なくとも上様が伊賀守を罷免するはずはない・・・」
少し考えたのち、西郷を見て
斉彬「西郷、お主はどう見る?」
西郷「恐れながら。動いているのは大老井伊掃部守かと」
斉彬「うむ、何故じゃ」
西郷「条約無断締結を理由に堀田様、実際は伊賀様から実権を奪い、さらに不時登城を誘発させ御老公や越前様を断罪する。すべては陰謀やもしれませぬ」
斉彬「まさかそこまでは。井伊など異国と渡り合えるような器はないぞ」
西郷「ですが、権力に対しては並々ならぬ野心があると見ますが」
斉彬「・・・」
桜島、ぼこっと噴火する。
その噴火にも慣れたもので皆動じない。
斉彬「やるか・・・」
西郷「はい?」
斉彬「武力を以て、江戸に上府する」
西郷「!」
西郷に向き直り
斉彬「まだ御継嗣が御相続されたわけではない。不時登城の処分もすぐではなかろう。急ぎ武力上府の準備にかかれ」
西郷「ははぁ」
すばやく退室する西郷。
再び噴火する桜島をみる斉彬。

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【974】第11話 D2 『謹慎隠居』≫

○江戸城・外観
『安政5年(西暦1858年)7月1日』
乗全の声「ご、ご危篤・・・」

 

○同・御用部屋
乗全と久世、直弼と脇坂、間部ら老中全員が集まっている。
乗全「上様が・・・」
久世「奥医師はそう言っている」
沈痛な乗全と久世。
直弼、冷静な表情で脇坂に目で指示。
脇坂「先日の不時登城に対する処分ですが、上様が存命のうちに発した方がよろしいかと存ずるが」
乗全「なっ」
久世「上様がご重体であらせられるのに、処分を発表するというのか。それも御老公と水戸・尾張という御三家当主に対し・・・」
脇坂「逆にご存命だからこそ行うのです。申し上げたくはないがもし上様が亡くなりでもしたらもう処分などできなくなる。そうなれば、もはや混乱の極地に陥るは必定」
久世「だ、だが・・・」
乗全「し、処分とはいかなるものか」
脇坂、直弼の方を見る。
直弼「御老公、尾張慶勝殿、越前中将殿は謹慎・隠居」
久世「謹慎・隠居・・・」
乗全「家督を継嗣に譲って引退、ということか・・・。御老公はともかく慶勝殿と慶永殿はまだお若い。それはさらに争いの火種になるぞ」
直弼、遮るように
直弼「不時登城は重罪。それは御三家だからといって不問にしたら法や律は全く守られぬものとなりましょう」
乗全「そ、それは・・・」
直弼「台慮を以て行えば文句はあるまい」
乗全、ハッとなり
乗全「それだ、大老殿はそうして台慮を私物化してないか。それは上様の意ではないではないか!」
直弼「上様が応えられる状態でないからこそ、御継嗣の発表を急いだのではないか。この上は徳川宗家御相続の準備も急ぎ、変事に備えるが得策である」
乗全「な・・・」

 

 

 

【973】第11話 D1 『継嗣発表』≫

○江戸城・大広間
『6月25日』
大勢の諸侯が居並ぶ中、直弼はじめ幕閣たちが台慮を発表している。
役人「徳川宗家の御継嗣は、紀州慶福様と決定いたした。これは台慮である」
ニヤリとする直弼。

 

○各・屋敷・内
水戸藩邸、尾張藩邸、越前藩邸にそれぞれ謹慎している斉昭・慶勝・慶永。
継嗣発表の報を聞き、怒りに震える
斉昭「おのれ、掃部守・・・」」
慶勝「なんと滅茶苦茶な・・・」
慶永「ゆ、許せん、まだあきらめんぞ」

 

○忠固邸・外観

 

○同・内
石河が病床にふしている。
横で見舞っている忠固と乗全。
石河、忠固らに気付き、起きようとする。
石河「も、申し訳ございませぬ。報告に来た身でありながら」
忠固「何を言うか。病身でありながら役目を果たすとはあっぱれだぞ、石河」
一瞬、にこりとするが、すぐに険しい顔になる石河。
石河「ご、御前・・・、う、上様は・・・」
忠固「安心せい。倒れられたが直に良くなる、との見立てだ。脚気による衝心らしい」
乗全「お主も養生してはよう復帰せい」
石河「ち、違う・・・。う、上様は狙われている。上様が危ない」
顔を見合わせる忠固と乗全。
忠固「では上様は脚気ではなく、毒を盛られた、というのか」
石河「はい。上様自身がお気づきになられ・・・」
ごほごほと咳き込む石河。
忠固「ま、まさかお主も・・・」

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【972】第11話 C4 『不時登城』≫

○井伊邸・外観(朝)
『6月24日』

 

○同・内
慶永が直弼を詰問している。
慶永「話が違うではないか」
直弼「何のことです?」
慶永「協力して伊賀を止める、との約束だったはず。条約調印は19日とのこと、それは話を伺った前日ではないか。だましたのか」
直弼「これは心外なことを。伊賀が暴走し、前日のうちに調印してしまった、というだけのこと。だからその罪を問い、伊賀を罷免したわけで」
慶永「そなたの責任はどうなのだ、そなただって責任は免れぬぞ」
直弼「某は勅許を待つように最後まで主張をした。こうなった以上、一度は開港するが隙を見て閉港に持っていくしかないと存ずる」
慶永「・・・。さ、さらに重大なるは御継嗣問題、紀州殿に決められたとの話も聞く。いかがか」
直弼「上様がそうお考えであるのは聞いていおります」
慶永「京都の意見は違うはずじゃ。条約の勅許といい、御継嗣の勅命といい、京都を軽視すること甚だしすぎるぞ」
ゴーンと始業の鐘の音。
直弼「おお、始業の鐘じゃ。では某は登城する故、これにて」
慶永「お待ちなさい、大老に始業時刻は関係ないはず」
裾を握る慶永。
直弼「何をするか」
ばっと払いのける直弼。
直弼「見苦しいぞ、越前守」
荒い口調にたじろぐ慶永。

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【971】第11話 C3 『台慮』≫

○江戸城・廊下(朝)
『6月22日』
朝焼けがまぶしい。
老中の久世がすごい形相で歩いている。

 

○江戸城・御用部屋
ふすまを荒々しく開け中に入る久世。
久世「どういうことですか」
中にいる直弼と脇坂、内藤の閣僚陣。
脇坂「本当にどうしたものか。井上と岩瀬が勅許を待たずに調印してしまって」
久世「そうではござらん、堀田殿は当然としても伊賀殿がなぜ登城停止なのだ。いったい全体どういうことなのだ」
脇坂「そうだ、もとはと言えば伊賀殿が二人をけしかけたのだ。あの二人が無断調印をした責任は当然伊賀殿にある」
久世「ば、バカな。そんなバカな話があるか。閣議で全会一致で調印は了承されたではないか。なぜ伊賀殿一人が罪をかぶる必要がある。いや、そもそも何の罪だ、何を以て罪なのだ」
脇坂「う・・・、それは・・・」
久世「井伊大老、いったいどういうことなのだ、これは」
内藤「・・・」
内藤、困惑しきった顔でうつむいている。
久世「大老」
直弼、落ち着き払った顔で
直弼「台慮である」
久世「な、なに?」
直弼「台慮、すなわち上様の思し召しである」
久世「う、上様の・・・」

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【970】第11話 C2 『晴天の霹靂』≫

○江戸城・大手門
『安政5年(西暦1858年)6月20日』
忠固が門から通路を歩き、玄関に入る。

 

○同・入口
茶坊主が迎える。
茶坊主「公方様よりご内意がございます」
廊下を進む忠固。

 

○江戸城・庭
庭で盆栽を切っている家定。
突然胸を押さえて苦しがり、ばたっとうずくまる。
女官たちが気が付き、騒ぎ出す。
女官A「う、上様」
女官B「だ、誰か、誰かある」

 

○同・将軍謁見の間
誰もいない将軍が座る一段高い上座。
下座にて座って家定を待つ忠固。
ぽつぽつと雨が降り出す。

 

○同・将軍の間
床に伏している家定。
周囲には奥医師が集まっている。
奥医師「う、上様」
家定、周りを見回し石河を見つける。
家定「い、石河と二人だけにしろ」
一同の目が石河に向く。
奥医師「上様、我ら奥医師が側にいなくては」
家定「余の命じゃ。さがれ」
すごすごと一同、部屋を出ていく。
二人きりになる家定と石河。
石河「う、上様・・・」
家定「や、やはり毒だったな」
石河、頭を畳に擦り付け、
石河「も、申し訳ございませぬ。私が命に代えてもお守りせねばならぬところを」
家定「お主のせいではない。こうなる事は余の宿命だろう」
石河「う、上様…」

 

○慶永邸
直弼が部屋に入っていく。
部屋の中で待っているのは慶永。

 

○同・将軍謁見の間
雨がザーザーと激しくなってくる。
その様子を何気なく見やる忠固。

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【969】第11話 C1 『日米修好通商条約締結』≫

○江戸城・外観
『安政5年(西暦1858年)6月19日』

 

○同・評定の間
忠固・堀田をはじめとする老中陣、岩瀬・井上をはじめとする下級役人、上座に大老の直弼が座っている。
井上が報告している。
井上「一昨日の6月17日、ハリスがポーハタン号にて横浜沖に来航。文書にて正式に申し入れを行っています」
文書を読む直弼。
井上「昨年来エゲレス・フランス両国は清国に対し攻撃を加え、広州を占領し天津を制圧しました。そしてその結果結ばされたのがこの天津条約です」
岩瀬「賠償金はエゲレスに対し400万両、フランスに対して200万両」
ざわつく一同。
『よ、400万…』『合わせて600万両ではないか』などの声。
岩瀬「さらに、南京をはじめ計10港の開港。アヘンの輸入公認、交易における関税率の撤廃。キリスト教の布教と支那における旅行のフリー、等です」
直弼「フリーとは何か」
岩瀬「好きにしてよい、天下御免である、ということです」
直弼「・・・」
冷や汗をたらす直弼。
『10港の開港・・・』『それよりアヘンじゃ、問題は』『いや、邪教の布教が最も深刻』などの声。
井上「エゲレス・フランスはこの勢いを以て日本にやってくる、ハリスはそう言っております。オランダ・カピタンに確認したところそれは間違いないとの返事」
久世「日本にやって来る・・・。だが我が国がきゃつらを軍備で退けるは不可能。となれば唐の国と同じように・・・」
静まり返る場。
目を閉じていた忠固、目を見開き、満を持して口を開く。
忠固「もはや機は来た。今こそ条約を締結する。今ならこちらの条件で条約を締結できる、関税もかけられ利益も得られるのだ。逆に、この機を逃せば、清国のような条件、関税なき奴隷のような条約となろう」

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【968】第11話 B4 『毒見』≫

○将軍の間
家定の前に食膳が並んでいる。
毒見役が食べ終わり、家定が食事を始める。
家定「!?」
何か違和感を感じる家定。
箸をおく。
家定「やめた。今日は食欲がない」
席を立つ家定。
付人「う、上様・・・」
あせる周りの者達。
家定「それと、石河を呼べ。すぐにじゃ」

 

○庭
遠くから家定の様子を見ている付人。
木に登っている家定。
下の枝で聞いている石河。
家定「い、石河・・・、毒じゃ」
石河「え?」
家定「おそらく毒をもられた」
石河「本当にござりますか。毒見の者の報告ですか?忍びからの?」
家定「余自身じゃ」
石河「う、上様自身・・・」

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【967】第11話 B3 『密談』≫

○暗い部屋
男たちが密談している。
男A「これは・・・?」
男B「カビです」
男A「カビ?」
男B「沢手米についたカビです。沢手米、つまり海水に濡れ損じた年貢米ですが、そこから発生したカビには強い毒素が出ることがあります。その毒は数時間のうちにマヒを起こして三日位の苦悶のうちに死にます」
男A「ほう」
男B「そして、その症状は急性脚気・衝心脚気に非常に似ています。おそらく蘭方医をもってしても脚気と診断するでしょう」
男A「脚気か・・・。で、大丈夫なのであろうな」
男B「はい。このカビは元は偶然見つけたもの、それを我が里で秘伝化したもので、他には全く知られておりません」
男A「よし。奥祐筆に志賀金八郎という者がある。その者を使え。問題ない、根回しは済んでおる」
男C「かしこまりましてございまする」

 

 

 

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