開国の父 老中・松平忠固

9月2020

【992】第12話 D4 『エピローグ』≫

○岩瀬邸
蟄居中の岩瀬、さみしそうに空を見上げる。
何かを思い出し、ふっと笑みがこぼれる。
忠固の声「メリケンに行くだと!?」

 

○(回想)御殿山
桜の咲く御殿山から英国軍艦やお台場の砲台が見える。
岩瀬が忠固に報告している。
忠固の横には、井戸と石河。
岩瀬の後ろには、水野・井上・永井・堀。
岩瀬「はい。日米修好通商条約の批准書を交換する為に咸臨丸でサンフランシスコに渡り、それからワシントンに行き、メリケン国プレジデントと謁見します」
忠固、むむっとなりしばし考えた後
忠固「だめだ」
岩瀬「え?」
にやりとする忠固。
忠固「プレジゼントとは我が会う。お主は副使じゃ」
ははは、と笑い合う一同。
桜咲く御殿山の向こうに富士山が輝く

 

 

『日本を開国させた男/日米和親・修好通商条約締結物語』

 

 

 

【991】第12話 D3 『エンドロール』≫

○太平洋
荒波の中進むポーハタン号と咸臨丸。
『同年2月井上清直、外国奉行罷免。10月7日橋本佐内、処刑。10月27日吉田松陰、処刑。11月中居屋、営業停止処分。12月石河政平、切腹』
N『日米修好通商条約締結時に設定した20%の一般関税は、7年後の慶応2年インド・清国と同じ一律5%に改定され不平等条約と言われるようになる』

 

○岩瀬邸
門には二人見張りが立っている。
庭にたたずむ岩瀬、悔しそうな表情。

 

○サンフランシスコ港
サンフランシスコ港に入港する咸臨丸とポーハタン号。
『翌年3月3日桜田門外の変にて井伊直弼暗殺、3月8日咸臨丸サンフランシスコ到着』
大勢の出迎えの人々。
紙吹雪のなか大歓迎される勝海舟や福沢諭吉ら幕府一行。

 

 

 

【990】第12話 D2 『その時』≫

○萩・松下村塾・内
『萩』
うららかな日差しの中に佇む小屋。
吉田松陰と桂小五郎(26)が座っている。
桂「上田候?あんなの異国に我が皇国を売り渡した大奸物の張本人ではないですか」
松陰「いや、違うのだ。あの御方は象山先生を放免しようとしているし、そもそも私が密航で死罪になるところを減刑して下さったのもあの御方なのだ。あの方は違う、違うのだよ、桂君」
全く納得していない桂。

 

○街道
帰途についている忠固一行。
物思いにふけっている忠固。
声「デモクラシー?」

 

○中居屋(夜)回想
忠固と撰之助、小三郎が話している。
小三郎「有力な大名・見識ある家老や旗本を代表とする上院と一般の民の中から特質すべき有能なるもので構成される下院によって上下二つの議会を設置し、法を決定するのです」
キラキラと輝く小三郎の顔。
小三郎「それは君が主の政治ではなく、民が主の政治。つまり民主政治です」
忠固「民主政治・・・」
夜の月を眺めている忠固。

 

○街道
馬に乗っている忠固。
忠固「君主制から民主制へ・・・か。まさかそんな時代が来るとはのぉ・・・。どうする!?阿部殿、引き金を引いたのは阿部殿かな、我かな。ふふふ」
ひとり微笑んでいる忠固。
杉林に囲まれた街道筋を歩く忠固、剛介ら一行。
忠固「むっ」
一行の前から出現する15人程度の武士。
後ろからも同様の武士達が迫ってくる。
一行、一瞬にして高まる緊張感。
忠固「・・・」
バッと馬から降りる忠固。
忠固の一行、臨戦態勢となる。
ジャキっと大剣を抜く剛介。
剛介「殿・・・。八木剛介、この日の為に生きて参りました。いざ出陣いたす」
忠固に一礼し、ゆっくり敵に向かっていく。
斬り合いが始まる。
快晴の空を仰ぐ忠固、阿部の刀をまじまじと見つめ、ゆっくりと抜刀する。
忠固「ふふふ。死ぬにはいい日だ」
精悍な顔。
『安政6年(1959年)9月4日松平伊賀守忠固死去。9月5日隠居・家督相続届。12日病死届』

 

 

 

【989】第12話 D1 『安政の大獄』≫

○水戸藩邸・内
『安政6年(西暦1859年)8月27日』
斉昭が上意を通達されている。
使い「藩主・水戸慶篤を差控、中納言・斉昭は国許永蟄居、家老・安島帯刀は切腹を申し渡す」
わなわなと打ち震えている水戸藩一同。
平伏していない。
斉昭「ぐ、ぐぬぬ」
斉昭が握りしめる指から血がにじんでいる。

 

○江戸城・小広間
『同日』
同じように通達を受ける岩瀬、永井、川路。
使い「岩瀬肥後守忠震、永井玄蕃頭尚志を職禄没収の上差控、川路左衛門少尉聖謨を御役罷免の上隠居差控を申し渡す」
驚く永井。
永井「そ、そんな・・・」
川路「・・・」
冷静に受け止める川路。
岩瀬「・・・」
使いを睨み、復讐に燃える岩瀬の目。

 

○横浜・運上所
『翌28日』
同じように通達を受ける水野。
使い「水野筑後守忠徳を外国奉行罷免とする」
水野「ば、ばかな・・・」
唖然とする水野。

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【988】第12話 C4 『商談成立』≫

○横浜
洋館が急ピッチで作られている。

 

○中居屋・外観

 

○同・応接室
撰之助とデント商会代理人で日本人の波松が商談している。
並松は洋服を着ている。
声「いらっしゃいました」
撰之助「お通ししろ」
忠固ら4名が入ってくる。
忠固、待っているのが音吉でないのに気付く。
忠固「・・・」
緊張して思わず立ち上がる並松。
撰之助「波松さん、こちらが前老中の松平伊賀守様です」
前に進み出る忠固。
日本人の和服に対して、自分の着ている洋服をちらりと見る波松。
御手打ちにされるのかとたじろぐ。
やはり元は日本人なのでガタガタと足が震えだし、今にも平伏しそうになる。
並松「・・・、も、申し訳・・・」
そこへ差し出される手。
並松「!」
忠固「そなたらの挨拶であろう。松平忠固である」
忠固、柔らかく微笑む。
波松、ぼろっと涙が流れ、忠固の手に握手する。
ぶわっと泣き出し、両膝をつき、すすり泣く。
忠固「そちも音吉と同じで苦労したようじゃな」
忠固、波松の肩に手をかける。
すすり泣く波松。

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【987】第12話 C3 『フリーメーソン』≫

○イギリス軍艦・外観(夜)
影の声「金本位制だと!?」

 

○同・暗い部屋(夜)
暗い一室。
誰だかわからない男が座っている。
その男に報告している形のケズウィック。
ケズウィック「はい。確かに日本の役人がそう言いました」
影の男「・・・」
ケズウィック「いかがいたしましょう」
影の男「うむ。その男、油断がならぬ。いや、この国の政府が油断ならぬのか・・・」
ケズウィック「その役人の上の大臣は全く分かってないようでした」
影の男「ふむ。とにかくその二朱銀とかいう通貨は即座に廃止するよう徹底的に要求するのだ。そして、そのミズノとかいう男は罷免するよう大臣に強硬に圧力をかけよ。オールコックにもそう伝える」

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【986】第12話 C2 『屏風の水野』≫

○芝・愛宕真福寺
会見場に、ハリスと脇坂が対峙している。
脇坂の後ろには屏風があり、そこに水野が控えている。
テーブルにバラバラっと貨幣を並べるハリス。
ハリス「なんですかなこれは。この新二朱銀というものは、あきらかなる陰謀ですな。ドルの価値を三分の一に貶める巧みで、姑息な所業です。即刻中止してもらいたい」
脇坂、手拭いで汗をを拭きながら
脇坂「ですから、書状にも書いた通り、メリケンと日本の銀貨の価値が違うのです。一分銀は紙幣のような通貨でござりますれば・・・」
ハリス「それだ、それはいったいどういうことなのかね。まったく理解に苦しむ。納得いくように説明してくれんかね」
脇坂「・・・」
答えられずおろおろする脇坂、ゴホンと咳払いをする。
屏風の裏の水野が小声で話す。
水野「この一分銀、重さで計ればドルの三分の一の重さです」
脇坂「この一分銀、重さで計ればドルの三分の一の重さです」
水野「その理屈でいえば、確かにハリス殿の申される通り、1ドルは一分銀3枚分と等分ということになります」
脇坂「その理屈でいえば、確かにハリス殿の申される通り、1ドルは一分銀3枚分と等分ということになります」
水野「しかしながら、日本の一分銀は実質価値の3倍の価値があるのです。3倍の価値で流通させているのです」
脇坂「しかしながら、日本の一分銀は実質価値の3倍の価値があるのです。3倍の価値で流通させているのです」
水野「日本は金本位制を採用しています。銀貨は刻印を打って通用させている金貨の代用貨幣です」
脇坂「日本は金本位制を採用しています。銀貨は刻印を打って通用させている金貨の代用貨幣です」
水野「実質でなく額面で流通させている、すなわち紙の通貨と同じ形で使っており、紙幣のような通貨とはそういう意味でござる」
脇坂「実質でなく額面で流通させている、すなわち紙の通貨と同じ形で使っており、紙幣のような通貨とはそういう意味でござる」
ハリス「ばかな、そんなことができるはずがない。それではいくらでも価値を落とした粗悪な通貨、偽の通貨がはびこるではないか」
水野「それがはびこらないのでござる」
脇坂「それがはびこらないのでござる」
ハリス「なぜだ」

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【985】第12話 C1 『巨額取引』≫

○横浜・通り
建設中の横浜。
西洋商館街がだいぶ出来上がり、建設資材や大工や人足達が忙しそうに動いて活気に満ちている。
堀が図面を片手に大工に指示をしている。
声「だいぶできてきておるな」
その声に振り向く堀。
立っているのは忠固。
堀「こ、これは伊賀守様。いつこちらに」
忠固「ついたばかりじゃ。向こうが異人街じゃな」
建設中の英一番館。
威風堂々のたたずまい。
堀「伊賀様は洋館は初めてでござりますかな。やはり我が国の建築とは全く違います。豪華というか威風堂々といいますか」
忠固「ふふふ。それにしてもよくもあんな建物が作れたな」
堀「見て下さい」
筆談をしている中国人と日本人。
中国人が日本人に指示している。
堀「エゲレス人が香港より唐人を連れてきて作らせているのです。ですが、あれを建てているのは日本人です。鹿島の岩吉と申しましたか。大した腕前です」
英一番館、米一番館。
忠固「ほう」
堀「ジャーディンマセソンの英一番館、ウォルシュホール商会の「米一」も岩吉が手掛けております」

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【984】第12話 B4 『二朱銀の衝撃』≫

○横浜・両替所
天秤。
ドル銀貨と二朱銀貨が秤に乗っている。
ドル一枚と二朱銀貨2枚で釣り合っている。
オールコックはじめとする英国一行、二朱銀貨を眺めながら
オールコック「確かに、一ドルと二朱銀貨2枚、つまり一分が同重量なのを確認した」

 

○横浜・日本人商店街
両替所から出てきた一行、新しい商店街の街並みに繰り出す。
商店に並ぶ商品を見ながら、オールコックが指示をする。
オールコック「何か買ってみるか」
ある小物屋でサトウが小物を取り、店主にハウマッチなどと話しかける。
店主、言葉は分からないが、だいたいを察して
店主「へぇ、これは6分でさぁ」
指を6本突き出す。
サトウ「6分ということは、1ドルは3分だから2ドルだな」
2ドルを渡すが、店主は首を横に振る。
サトウ「なるほど、洋銀は受け取らないというわけか」
ヴァイス「長崎と同じだな」
役人が先ほど交換した銀貨を取り出した。
サトウ「交換した銀貨は1ドルイコール3分で2枚だったので、6分だったら4枚だ」
と二朱銀を4枚渡す。
また首を横に振る店主。
両手で、4、4とあと8寄こせと促す。
サトウ「なにぃ、あと8枚寄こせだと、ふざけんな、ぼったくりもいい加減にしろ」

(さらに…)

【983】第12話 B3 『出発』≫

○神楽殿
五角形をしている神楽殿。
ろうそくの火が揺れる薄暗い部屋の中で、巫女三人が神楽を舞っている。
神秘的であり、妖艶な剣舞の舞。
その美しさは見るものを恍惚とさせる。
舞っている巫女は、忠固の正室・三千と少女のような雰囲気の2人。
やがて2人が下がっていき、三千一人が舞い始める。
巫女が見る視線の先。
その先に座る忠固。
巫女の舞を見ている。
巫女が舞い終えると、その前に歩み出る忠固。
忠固「三千」
忠固、三千と向かい合って座る。
忠固「行こうと思う」
三千「・・・」
忠固「どうだ」
三千、哀しそうな顔で
三千「行ってはなりません」
忠固「・・・」
三千「今生の別れとなります」
忠固「・・・。そうか」
見つめあう二人。
忠固「だが行かねばならぬ。それが男子というもの・・・」
ポロリと三千の頬を伝う一筋の涙。
忠固「この家を・・・、子供たちを頼む」
三千「はい・・・」
忠固、三千を励まそうと微笑みながら
忠固「帰ってこないとは限らん。お主もよく言っているではないか。予知は人の意志の力で常に変わり得ると」
三千、少し微笑む。
忠固「これが本当に最後だ。もし戻れたら本当に引退する。そうしたら一緒に上田に帰ろう」
見つめ合う二人。
忠固、三千を残し神楽殿を後にする。
三千「・・・」
忠固の後姿をいつまでも目で追う三千。

 

 

 

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