開国の父 老中・松平忠固

【985】第12話 C1 『巨額取引』≫

○横浜・通り
建設中の横浜。
西洋商館街がだいぶ出来上がり、建設資材や大工や人足達が忙しそうに動いて活気に満ちている。
堀が図面を片手に大工に指示をしている。
声「だいぶできてきておるな」
その声に振り向く堀。
立っているのは忠固。
堀「こ、これは伊賀守様。いつこちらに」
忠固「ついたばかりじゃ。向こうが異人街じゃな」
建設中の英一番館。
威風堂々のたたずまい。
堀「伊賀様は洋館は初めてでござりますかな。やはり我が国の建築とは全く違います。豪華というか威風堂々といいますか」
忠固「ふふふ。それにしてもよくもあんな建物が作れたな」
堀「見て下さい」
筆談をしている中国人と日本人。
中国人が日本人に指示している。
堀「エゲレス人が香港より唐人を連れてきて作らせているのです。ですが、あれを建てているのは日本人です。鹿島の岩吉と申しましたか。大した腕前です」
英一番館、米一番館。
忠固「ほう」
堀「ジャーディンマセソンの英一番館、ウォルシュホール商会の「米一」も岩吉が手掛けております」

しばらく眺めている二人。
堀「伊賀様、、、大丈夫でございましょうか・・・」
忠固、心配そうな堀を見て
忠固「どうした、異人共相手に商売するのがこわいか」
堀「そんなことはありません!・・・、と言いたいところですが、実際そうです。我らが西洋技術を吸収する前にこちらが完全に吸収されてしまうようで・・・」
忠固「それはやりようだ。やりようでどうにでも変えられる」
堀「そうです、できる者なら変えられる。しかし、できぬ者がやったら破滅です。岩瀬、永井、井上様はいないのです。伊賀様、貴方様もです。貴方様はじめ皆が復帰せねばとても成し遂げられはしないでしょう」
忠固、黙る。
堀「・・・」
叱咤されると思った堀、意外に思う。
忠固「すまぬな」
堀「・・・」
一抹の不安を感じる堀。

 

○中居屋・外観
豪華な造りの三階建て建物。

 

○同・応接室
美しい生糸。
それを手に取り見ているハーバー。
そのハーパーをさらに見ている撰之助。
ハーパーは大きな葉巻を吸い、足を組み態度がでかい。
撰之助「・・・」
固唾をのんで見守る撰之助。
ハーバー、中国人通訳を介して話をする。
ハーバー「なかなかいい出来だ、未開文明人にしては」
通訳「すばらしい出来の生糸、あるよ」
撰之助「ありがとうございます」
ハーバー「早速買おう。すぐに持って来い、未開人めが」
最後の捨て台詞以外を訳す通訳。
撰之助、明らかに外されている接尾語が気になりながらも
撰之助「あ、ありがとうございます。すぐでございますか。それでは店に五百斤ばかりございますのですぐに持ってまいります」
ハーバー「五百?。何を寝ぼけたことを言っておるのだ。子供の買い物ではないぞ、この未開人めが」
撰之助「・・・。はい、それでは地元に取り次ぎまして急ぎさらに七百を取りそろえまして」
ハーバー、胸元から短銃を取り出し、庭に向けて発射する。
バキューンという轟音との後、静まり返る場。
撰之助「・・・」
一同、驚きの表情。
ハーバー「何を言っておるのだ、未開人。わしは東洋を支配するジャーディンマセソン商会のハーバーであるぞ。おまえらとは住む世界が違うのだ。10万斤用意せよ。すぐにだ」
撰之助「え、いくらでございますか」
ハーバー「10万だ、10万。この原始人めが」
撰之助、通訳に向かって
撰之助「・・・。最後になんと言っている?」
通訳「え?何も言ってないよ」
撰之助「俺はオランダ語が分かる。エゲレス語も少しは分かる。なんと言っているか言え」
通訳「・・・。こ、この原始人めが」
原始人という言葉に顔色を変える撰之助。
胸元から火薬玉を取り出し、庭に投げる。
大轟音と共に炸裂する。
ハーバー「おぉー」
驚くハーバー。
煙が辺りを充満する。
撰之助「俺は原始人ではないし、日本は未開な国ではない。10万斤、すぐに用意してやる。武士に二言はない!」
玄仲「・・・」
玄仲、おまえは武士じゃねーだろ、という困った表情。
ハーバー「・・・」
度肝を抜かれているハーバー。
爆発した跡からグスグスと火が燃え広がる。
撰之助「お、おい。火だ。火を消せ」
バタバタと大騒ぎになる一同。

 

 

 

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