開国の父 老中・松平忠固

【989】第12話 D1 『安政の大獄』≫

○水戸藩邸・内
『安政6年(西暦1859年)8月27日』
斉昭が上意を通達されている。
使い「藩主・水戸慶篤を差控、中納言・斉昭は国許永蟄居、家老・安島帯刀は切腹を申し渡す」
わなわなと打ち震えている水戸藩一同。
平伏していない。
斉昭「ぐ、ぐぬぬ」
斉昭が握りしめる指から血がにじんでいる。

 

○江戸城・小広間
『同日』
同じように通達を受ける岩瀬、永井、川路。
使い「岩瀬肥後守忠震、永井玄蕃頭尚志を職禄没収の上差控、川路左衛門少尉聖謨を御役罷免の上隠居差控を申し渡す」
驚く永井。
永井「そ、そんな・・・」
川路「・・・」
冷静に受け止める川路。
岩瀬「・・・」
使いを睨み、復讐に燃える岩瀬の目。

 

○横浜・運上所
『翌28日』
同じように通達を受ける水野。
使い「水野筑後守忠徳を外国奉行罷免とする」
水野「ば、ばかな・・・」
唖然とする水野。

 

○江戸城・大広間
井伊と後方の板の間に座る長野。
暑さで扇子を仰ぐ直弼。
長野「処分は滞りなく言い渡してございます」
直弼「そうか」
長野「それと・・・、横浜で巨額な取引が成立したようです」
直弼「物は」
長野「それが生糸らしく」
扇子がぴくっと手が止まる。
しかし何事もなかったように再び動く手。
長野「伊賀守の推進していた物です。しかも、さらに驚くべきはその取引量で僅か2日間で1万斤にも上っているとのこと・・・」
直弼「・・・。取引をした店はなんという?」
長野「中居屋です。三井によると横浜の取引の6割をこの中居屋が担っているとか」
直弼「・・・。あの者はどうしておる」
長野「・・・。現在かの地に」
直弼、扇子をぴしゃりと閉じる。
直弼「もはやあやつの役割も終わった。余に仇なす者は天罰を受けるであろう」
長野「御意」
上の間に人が入ってくる。
平伏する直弼。
見えないところに下がる長野。
顔を上げる直弼。
直弼「ご機嫌うるわしゅう。上様」
上座に座る徳川家茂(12)。

 

○横浜・中居屋・外観(夜)
隠密が見張っている。
石河の声「掃部守に決まっておるわ、上様をやったのは」

 

○同・同・応接間(夜)
忠固と剛介、撰之助が石河を迎えている。
石河「あやつは不審な点ばかりだ。そもそも14男であるあやつが藩主になった経緯さえ怪しい。前藩主・井伊直亮様も世子様も不審死しておるではないか。あやつの手なのだ。そうやってのし上がってきた輩なのだ。もしかしたら阿部様だって」
怒りに震える石河。
落ち着いている忠固、阿部の脇差を見ている。
忠固「明日、出立する」

 

○同・同・塀外(夜)
話を聞いていた忍び、暗闇に消える。

 

○同・同・応接間(夜)
忠固らに対し、撰之助が慌てて
撰之助「ま、まだ危険です。蟄居中の殿はたとえ襲われても公にする事はできません。しかも家督相続もされてないので万が一亡くなられたらお家取り潰しに…」
心配げに忠固を見つめる撰之助。
忠固「天が決める」
撰之助「・・・」
忠固「掃部守を大老にしたのは我。それが巡り巡って自分が討たれるとあらば、そこから逃げることはできぬ」
阿部の太刀を眺める忠固。
撰之助「で、ですが」
剛介、ジャキっと大太刀を上げ
剛介「我らは武士ぞ。襲撃を恐れて何とする」
撰之助「・・・」
忠固「ここに来てよかった。こうして生糸の商いが成立するのを見届けることができたのだ。日米和親・修好通商両条約締結の責任者としてこんなに嬉しいことはない」
撰之助「・・・」
忠固「交易は世界の通道なり。皇国の前途は交易により隆興を図るべきなり。世論轟々たるも、聞くべき通道必ず開けん。汝らもその方法を講ずべし」
撰之助「は・・・、はい」
忠固「礼を言う、撰之助、いや、中居屋重兵衛」
撰之助、涙を流しながら平伏する。
月明かりに浮かび上がる異国船団。

 

 

 

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