開国の父 老中・松平忠固

【949】第10話 B1 『勅許』≫

○江戸城・外観
声「勅許?」

 

○同・財務部屋
書類がうずたかく生まれた部屋。
書類にうずもれる中、作業をしている忠固。
水野と岩瀬が報告に来ている。
忠固「なんだ、それは」
岩瀬「勅許とは帝の許可を得ることにございまして・・・」
ぎろっとみる忠固。
岩瀬「すいません。そういうことではないですね。堀田様に条約交渉の報告をしたところ、条約批准するにあたって帝の許可をもらう、そしてそれは堀田様が自ら京に行かれる、とのお話でした」
忠固、失望の顔でため息。
忠固「・・・」
水野、その思いを思い分って
水野「御前があれだけ時間の無駄だとおっしゃったのに、とうとう決めてしまわれたか。自ら行くので文句なかろう、という意思表示でしょうか」
忠固「交渉もこれから正念場というのに、早くも後の心配をしているというのか、まったく。で、あの人はどのようにせよ、と言うのか」
岩瀬「京での手続き・往復を入れて2か月はかかりましょう。その間、調印は待ってもらいます。京へは私も随伴し御説明せよ、とのことにございます」
忠固「にかげ・・・」
忠固、阿部の刀をぎゅっと握りしめる。

不快の色を一瞬見せるが、すぐに平静を取り戻す。
岩瀬「ご老公や慶永公は勅許を得れば調印を了承するといっておりますし、溜間さえそれでよいと言っておるのです。私も堀田様同様、この案で良いと思います。これさえ済めば誰も異論なく調印できるのです」
忠固「わかったわかった、勝手にせよ。それより交渉の進捗はどうか。交易の品目で米・麦は対象外とすること、認められたか」
岩瀬「はい。米は日本人にとって特別でありしかも生産高は自給自足できる程度なので売り渡しがたいとのこちらの主張に対し、米価が高騰すればジャワその他から輸入して調達すればよい、と反論されましたが、最終的には米・麦の輸出禁止を認めさせました」
忠固「よし。武器は幕府のみが購入する、アヘンは全面禁止、その最も重要なる3点を認めさせたのは大きな成果だ。よくやった」
岩瀬「はい」
水野「・・・」
岩瀬に嫉妬の水野。
水野「だが、問題は関税だろう。輸出税は認められず、しかも輸入税にしても、品目によっては無税のものもあるではないか。そんなことになったら、我が国の物価は滅茶苦茶になるぞ」
忠固「いま計算しているが、関税は輸入輸出とも一割二分五厘とすればどうか。西洋諸国同士で二割でやっておるのだ。これくらいは行けると思うが」
岩瀬「一割二分五厘・・・。西洋諸国は二割・・・」
岩瀬にオランダの書物を見せる忠固。
忠固「そうだ。ちなみに侵略されたインドやシナなどは関税は認められない。あってもせいぜい五分程度。それはもはや属国といってよい」
水野「・・・」
岩瀬「・・・」
忠固「だが、もし輸出入一割ニ分五厘で締結できたら、その関税収入はわが幕府の年貢収入に匹敵する」
水野「年貢収入に匹敵。そこまで行きますか」
忠固「いける」
岩瀬「わかりました。やってみます。いえ、必ずやります。では早速」
出て行こうとする岩瀬。
水野「おい」
呼び止める水野。
水野「その勅許とやらの件だが」
岩瀬「・・・」
水野「堀田首座の同行に若い貴君だけでは心もとない。老練な者もつけた方がよかろう。俺は先月田安家家老に就任したばかりで動けぬ」
忠固に向き直り、
水野「川路殿はいかがでしょう。公家が相手。ならば最も効果を発揮するのは山吹菓子。勘定奉行こそ適任かと」
忠固、心ここにあらずで
忠固「ああ、任せる」
岩瀬「・・・」
岩瀬、若干不満そうな顔。
平伏して出ていく。
水野「・・・」
忠固は財政のことで頭がいっぱいだ。

 

 

 

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