開国の父 老中・松平忠固

【954】第10話 C2 『関白と太閤』≫

○料亭(夜)
鴨川沿いの料亭。
川床で西郷と左内が飲んでいる。
左内「老中首座が関白様・太閤様に接触したようですな。鼻薬が効いて関白様も条約了承に傾いているとか。無理もないかもしれませぬな。なにせ鼻薬は一万両との噂」
西郷「一万両・・・」
左内「我らに近い近衛家・三条家ならともかく、やはり九条家・鷹司家は思い通りにはなりませぬな」
西郷「・・・。将軍継嗣の方はいかがでごわすか」
左内「工作は見当たりません。南紀派と目されるのは、紀州、溜間筆頭・彦根、堀田・首座、次席・伊賀守だが」
西郷「やはり鍵は堀田殿。堀田殿を一橋擁立に傾かせる方策、それはやはり条約を利用するがよかろう」
左内「どのように?」
西郷「今回、条約の勅許は下ろさない。勅許を下ろすには水戸の力が必要だ。水戸に頼めば勅許が降りる、そういう状況を作り出す」

左内「なるほど。そうなると、なんとしても条約には反対とならなくてはなりませぬな。九条関白はともなく、鷹司太閤は開国主義。懇意の水戸家から鷹司家に今一度勅許反対を働きかけてもらいましょう」
西郷、うむと頷く。
ぐいっと杯を空ける。

 

○鷹司家(夜)
鷹司太閤に岩倉具視(32)が報告をしている。
太閤「なに?九条関白はんが開国容認に傾いたとな」
岩倉「はい」
太閤「なんたる節操のなさ、鼻薬にまんまと酔わしゃれましたか、あれっぽっちの金で」
太閤、岩倉の後ろの者に気付く。
太閤「岩倉はん、その御仁は」
岩倉「はい、こちらは彦根藩・長野殿にござります。この情報は長野殿よりもたらされたものでして。九条関白家と彦根家は元来より懇意の御家柄」
太閤「彦根の・・・。それはよく来てくれた。で、なぜじゃ?それを知らせてくれたのは。何が望みなのじゃ」
簡単には心を許さない太閤。
平伏している長野。
長野「はい。我が殿、井伊掃部守の願いはただ一つ、将軍継嗣において紀州慶福様とする勅命を下ろして頂きたい、ということです」
太閤「・・・」
あっけにとられるが、慶喜を勧められたのを思い出し
太閤「なるほど。じゃが、九条家と井伊家が元来より懇意なように、わが鷹司家と水戸家もまた元来より懇意じゃ。我が正室は水戸斉昭殿の姉君であるからの」
長野「存じております」
太閤「よほどのものがないと難しいの」
岩倉、口を出し
岩倉「恐れながら。このままでは関白の上奏により条約容認の勅許がおりましょう。そうなれば強固な幕府との結びつきにより九条関白の権勢ますます大きくなること必定。これを止めるには勅許阻止に動くことが重要かと」
太閤「だがどうやって止める」
目と目を会わす長野と岩倉。
長野「わが彦根藩は京都守護を担うお役目にて」
不敵に笑う岩倉と長野。

 

 

 

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