開国の父 老中・松平忠固

【807】第1話 B3 『蛮社の獄』≫

○御白洲
公事場に大草が座っている。
縁側上段に崋山。
一冊の本が提示される。
表紙には『慎機論』との文字。
大草「これはそちが書いたものに相違ないな」
崋山「相違ございません」
大草「ここにこう記してある。『これほど日本が外圧による国難に直面しているにもかかわらず、幕府上層部にはきちんと対応する人物がいない。国際情勢を知ろうとする気概もなければ、江戸城内において賄賂を横行させる権臣ばかりである。また本来こういう際に精神的な助言をすべき儒臣がまた、志が低く堕落しきっている』」
みるみる顔が青ざめる崋山。

大草「相違ないな」
崋山「それは決して出版したり、人に見せたりするものではなく、あくまで自分の中で整理するための・・・」
大草「見苦しい!」
びくっとなる崋山。
大草「これは明らかなる幕政批判が書かれた書物である。幕府上層部の批判に加えて、儒者の批判までしている。幕臣ならいざ知らず陪臣の分際で幕政に意見するなど、あまつさえ批判するなど許されざること。人に見せないものをわざわざ書物にする道理はあるまい」
脂汗が出ている崋山。
大草「しかもそちが蛮学を信奉している動機も不純である。異国と通じ我がご政道を転覆しようとしているのではないか」
崋山「そ、そんなことは決して」
大草「先日来航した異国船への砲撃・打払いに対しても激しく非難しておるな」
崋山「異国船・・・」

 

○三浦・城ヶ島の沖
『三浦・城ヶ島沖』
はためく星条旗。
星条旗を掲げた船。
『アメリカ商船・モリソン号』
日本沿岸に近づいている。
『天保3年(西暦1832年)7月30日』
乗っている船員は西洋人やクーリーの中国人たちだが、その中に日本人とみられる音吉(18)・岩吉・久吉がいる。
音吉「帰ってきたぞ」
岩吉「ああ、帰ってきた。長かったな」
久吉「14か月の漂流、5年ぶりの日本、帰ってこられるなんて夢のようだ」
ドーンと轟音と共に船のすぐそばに着弾する。
砲撃を受けたのだ。
久吉「撃ってきた。撃ってきたぞ」
音吉「違う。俺たちは日本人だ。撃たないでくれ。帰ってきたんだー」

 

○御白洲
モリソン号事件に思いをはせる崋山。
崋山「モ、モリソン号ですな。あ、あれは軍船ではありません。メリケン国の民間の商船です。しかも日本人の遭難者を送り届けてくれたものです。そ、その船を砲撃するなどとは人道上ゆる・・・」
必死に訴えるも力なくなっていく崋山。
大草「絵を売っているそうだな」
たたみかける大草。
崋山「は?」
驚いて顔をあげる。
大草「自ら描いた絵を売りさばき、不当な収入を得ているな」
崋山「それは・・・」
大草「公務をおろそかにして絵を描き、それで不当な収入を得ていながら、儒者が志が低く堕落しきっているだと」
崋山「・・・」
大草「どちらが堕落しているのだ。恥を知れ、恥を」
完全に言い負かされぐうの音も出ない崋山。
大草「厳しく詮議するから覚悟しておくように。以上だ」
バッと立ち上がり足早に出ていく大草。
そのあとに役人も退室していく。
最初の与力が気の毒そうに崋山を見る。
崋山「・・・」
うなだれ放心状態でその場を動けない崋山。

 

○牢
牢につながれる崋山。
N「生きて牢を出ることはあるまいと思っていた崋山であったが、周囲の嘆願もあり死罪は免れた。天保10年(西暦1839年)12月18日、田原での在所蟄居という比較的軽い処分で済んだが、天保12年(西暦1841年)10月11日、渡辺崋山は切腹することとなる」

 

○江戸南町奉行所
公事場に鳥居が座っている。
N「鳥居はその後、時の老中首座・水越候こと水野越前守忠邦の元で懐刀として出世していく。天保12年(西暦1842年)12月28日には、目付より江戸南町奉行に異動。在職中、従五位下甲斐守に叙任。そして、天保13年(西暦1842年)10月2日」
捕縛されているのは高島秋帆。
N「高島秋帆が逮捕される。徳丸が原の演習から1年後のことである」

 

 

 

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