開国の父 老中・松平忠固

【825】第2話 C1 『対決』≫

○水戸藩邸・外観

『水戸藩邸』

 

○同・庭
大きな弓の的。
その的のど真ん中に矢が刺さる。
続けて弓を弾く若武者。
庭では、弓の試射会が行われている。
折り畳みの小さな椅子に座っている斉昭、阿部、忠優、牧野、乗全の老中陣、その他数名の諸侯。
諸侯の中に松平慶永の顔。
牧野「お見事ですな」
斉昭「そうか。だがまだまだこんなものではないぞ」
顔で指示を出す斉昭。
的に黒船の絵が掲げられる。
老中陣「・・・」
黒船の的に向かって矢が射られる。
黒船の中心に突き刺さる矢。
続けざまに連射される矢、次々に突き刺さる。
これでもかとばかりに黒船に突き刺さり、矢で埋め尽くされる黒船。
老中陣「・・・」
ニヤリとする斉昭。
斉昭「近年最高の布陣と言われる聡明なる老中の汝らなら言わずとも知れよう」
表情の引き締まる老中陣。
斉昭「なぜじゃ、なぜ打ち払わない」
老中陣「・・・」
斉昭「なぜ夷狄に我が国を侵されているにも関わらず、座して黙しておる?なぜじゃ」
老中陣「・・・」
斉昭「黒船に怯え、大筒に臆しおって。なんたる軟弱、なんたる無様」
老中陣「・・・」

斉昭「汝らは公儀始まって以来の失態を演じておるのだ。いや夷狄にむざむざと内海に進入せしめるなどこの二千年来の皇国を汚しおったのだ。どう責任を取るつもりじゃ。いや責任を取るだけじゃ済まされんぞ」
甘んじて聞いていた老中陣。
牧野が重たい口を開く。
牧野「逃げている訳ではござりませぬ。戦うにしろ準備が必要であり、いきなり開戦するにはいかない訳でして」
斉昭「ええい、醜い言い訳じゃ。しかも夷狄どもは内海を測量しているというではないか。なぜ実力を以て阻止しようとせぬ。何が何でも阻止することが汝らの使命であろう」
牧野「それでは戦になりまする」
斉昭「なら戦うまで。その覚悟が汝らにはないのだ。汝らのような腰抜けに任せてしまった上様がお気の毒でならん」
キッと顔をあげる忠優。
忠優「ならば」
おっ、と忠優を見る斉昭。
忠優「御老公はメリケン国に戦を仕掛けて勝つとお思いか」
斉昭「伊賀か」
にらみ合う斉昭と忠優。
斉昭「いうまでもなく弓で戦うわけではない。そのために現在大筒を作らせている」
忠優「そんなもの、全く役に立たん」
斉昭「な、なんだと」
忠優「・・・、いずれにしろ今は大砲はない、ということですな」
斉昭「・・・」
ぐぬぬとなる斉昭。
にやりとなる乗全。
阿部「・・・」
斉昭「屁理屈を申すな。要は気持ちの問題じゃ。夷狄に舐められ為す術なく言いなりになるようでは御公儀の沽券にかかわる。外様や庶民農民にも示しがつかぬと申しておる」
聞いている忠優。
斉昭「勝ち負けや生き死に、などどうでもよい。それらの許されざること、やらねばならぬことに対し命を投げ出してもそれを護る、それが武士であり、そのためにのみ在るのが武士階級であるはずじゃ」
忠優「!!」
一同「!」
忠優「その言、お見事!!」
意外にも同意されたのでたじろぐ斉昭。
忠優「分かり申した。撃って出ましょう」
斉昭「・・・」
斉昭だけでなく、阿部はじめ老中陣も驚く。
忠優「戦端を開けば、おそらく圧倒的に負ける。何しろ敵の大砲の射程距離は我らの4倍、しかもきゃつらの砲弾は着弾と同時に大爆発する我が国にはない榴弾。屍の山が築かれるのは避けられぬ」
一同「・・・」
忠優「しかしそれで目覚める。『夷(い)を以(もっ)て夷を制す』。その敗北によってわが神州は目覚め、必ずや生まれ変わることができるでしょう」
一同「・・・」
初めて聞く敵の戦力に対する無知と発言の荒唐無稽さで、全くついていけないという雰囲気。
見かねた阿部。
阿部「ともかく、御老公。我らは決して攘夷をしないと言っているわけではござらん。戦うにしろこちらも準備をしなくてはなりませぬ。きゃつらは大人しくこちらの出方を待っております。それはつまり、まずは相手方の気勢を制し、我らの戦う準備をするための時間稼ぎに成功した、きゃつらの戦意をくじき、こちらの術中にはめることに成功した、ということでございます」
斉昭「う、うむ」
クールダウンする場。
場を和ませようと慶永、にこにこと
『福井藩主・松平慶永』
慶永「そういえば、ご老公は攘夷に備えて大筒を鋳造中だとか」
やはりにこにこと牧野。
牧野「さすがはご老公。口だけでなくきちんと行動も伴っておられる」
機嫌よくなる斉昭。
斉昭「当然じゃ。口だけの輩などわしは一番嫌いじゃ。現在75門の大筒を作らせておる。これは完成し次第、公儀に献上仕るつもりである」
阿部「それはありがたき幸せ」
斉昭「そして、台場と軍艦の建設を早急にするのだ、それをもってして夷狄に対し攘夷を決行するのじゃ」
忠優「・・・」
腑に落ちない表情の忠優。
忠優の表情を伺う阿部。
阿部「すぐれたご意見と実行力、この伊勢守、感服いたしております。ま、ともかく台場と軍艦は今後のことにつき、まずは今直面している黒船の対応ですが、いま探らせておりますゆえ、つかめましたらすぐにご報告申し上げる次第にございますれば」
満足げな斉昭。
斉昭「うむ」
忠優「・・・」

 

 

 

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