開国の父 老中・松平忠固

【866】第5話 A2 『別れ』≫

○横浜・松代藩陣屋
象山と家老が話している。
象山「下田に決まってしまっただと」
家老「入ってきた話によるとそのようになったらしい」
象山「うう、口惜しいぞ。このままでは黒船の技術などは全て江川に独占され門外不出となってしまう。ワシならばそのようなことはせん。革新的思考の持ち主のワシであれば広くその知識を広め、日本国全体にそれを行き渡させるのに」
ぐぐぐーとこぶしを握る象山。
そこへ使いの藩士Aが入ってくる。
藩士A「軍議役殿、客人が来ておる」
象山・家老「ん?」
通されたのは松陰。
松陰「先生」
象山「寅か」
松陰「先生、御無沙汰して申し訳ございません。たまたま神奈川宿に参りましたところ先生が横浜警護をあたられていると聞き、ご挨拶に参上した次第で」
周りの者が若干疑わしい目で見ている。
象山「そうか。わざわざすまぬな。お主は息災か」
松陰「はい」
象山「で、長崎はどうであったのだ」
長崎という言葉を聞いて、周りの藩士が聞き耳を立てる。
その様子を察する松陰。
松陰「実はわずかな差で客人とは会えずじまいで、あえなく帰参した次第で」
象山「そうであったか。それは残念だったのう」
松陰「ですが、今度こそ絶対に大丈夫です。つきましては、ちょっと書状の漢文を添削して頂きたく、ご教授頂けませんでしょうか」
象山「うむ、わしは忙しい故どれ、よこせ。今ここで見てやる」
そのやり取りは芝居がかっている。
松陰から紙を受けとる象山。
象山の受け取った漢文。
松陰の声「私は日本国江戸府の書生です。私は東西五百里・南北三百余里のこの国を離れることができません。貴国にあっては蒸気船などによって全地球をわずかの日数で周回するという話を聞きまして、足の悪い者が足の達者な者をうらやむ以上にうらやましく思ったことでした。何卒、貴国に連れて行って下さるなら、誠にかたじけないことであります。ただし、我が国の人間が外国に渡航することは厳禁とされていますので、このことが発覚すれば斬刑に処せられましょう。それゆえ極秘にして下さい」
象山「・・・」
さすがの象山も冷汗を垂らす。
象山「しょうのないやつだな」
すらすらと筆を進め、書き終わった書を松陰に渡す。
受け取る松陰、象山を見つめる。
象山も松陰の目をしっかりと見つめる。

 

 

 

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