開国の父 老中・松平忠固

【879】第5話 D3 『左遷』≫

○水戸藩邸
斉昭、藤田東湖らを前に
斉昭「ワシは辞める。断じてやめる」
東湖「殿、お待ちください。早まってはなりません」
斉昭「早まるも早まらないもあるか。伊勢め。もし上様が慰留されなかったらどうするつもりだったのじゃ。自分だけとっととやめてその後の面倒は全てわしが負わさたというのか」
東湖「まさか、伊勢様に限ってそんなことはありますまい」
斉昭「ワシは聞いてなかったぞ。ワシに相談もなし、ということは同じ事じゃ。冗談じゃない。ワシは田園のカカシか」
東湖「・・・」
ため息をつく東湖。
N「嘉永7年(西暦1854年)4月30日、徳川斉昭は海防参与を辞任した」

 

○彦根藩邸
大名行列がまさに出発しようとしている。
N「一方、5日後の5月5日、彦根藩は警護地を羽田・大森から京都に変更となり、この日京へ向けて出発しようとしていた」

長野と対峙している直弼。
直弼「ぐっ、口惜しいぞ。伊勢め、伊勢め、この井伊を都落ちさせるなど」
お茶を飲んでいる長野。
長野「都落ち?、我らはこれから京に参るのですぞ、都へ参るのですぞ」
直弼「むっ、そっ、そんな気休め、聞きとうないわ」
長野「落ち着いて下され、殿。たしかに今回は伊勢にいっぱい食わされました。しかし京の警護は元々申し入れていたもの」
直弼「そ、それはそうだが・・・」
長野「これはこれで、策はあります」
直弼「策だと?」
長野「はい、それは・・・」

 

○庭
カコーンとししおどしがなる。

 

○茶室
直弼「な、なるほど」
長野「何も解決などしておりません。今後メリケンとの間に開国・通商問題が再燃します。仮に老中どもがうまく切り抜けた際にはこの策を用います。逆にうまくいかずメリケンと戦になれば、今回の警護地変更で我が藩が捨て石にさせられずに済みます。まさにどちらに転んでも良策ではないですか」
直弼「さ、さすがは主膳。恐れ入ったぞ。よし、先に京へ飛び、準備をいたせ」
長野「は」
急ぎ出ていく長野。
空いた襖から、慌ただしく準備をしている家臣達を見て、思い出したように不機嫌になり扇子を畳にぐりぐりと押し付ける。

 

 

 

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