開国の父 老中・松平忠固

【889】第6話 C1 『北緯50度』≫

○樺太・久春古丹
岬の上にムラヴィヨフ哨所が見える。
そこへ向かっていく日本の役人。
浜には堀や村垣らがいる。
堀「なにぃ、一人のロシア人もいないだと」
役人A「はい。要塞は空っぽです」
村垣「どういうことでしょう。今月ここで交渉する約束を長崎表がしたはずですが」
堀「おのれぇ。俺では役不足という訳か。くそ。馬鹿にしやがって」
村垣「それにしても変です。我らをバカにしたところで基地全体が撤退することはないでしょう」
堀「そ、それもそうだな。ではどういうことだ。
村垣「分かりません。ですがこの様子だと何らかの理由でこの要塞は放棄したということですから、しばらくは奴らは来ないのではないでしょうか」
堀「よし、このまま北上しよう」
村垣「え、一度戻らずにこのままですか」
堀「戻っても時間の無駄だ。国の境まで行くのだ。北緯50度まで」
村垣「北緯50度・・・」
遠くを見る堀。

 

○江戸城・外観(夜)
『嘉永7年(西暦1854年)3月』

 

○同・御用部屋
阿部・堀・川路が会議をしている。
川路「ロシアとの条約締結もメリケンと同様の内容に、とのことでそれは了解致しました。問題は国境でござりますが」
日本地図、世界地図、北海道・樺太の地図が散乱している。
オランダ語の本や日本の書籍も山積みになっている。
川路「困り果てましたな」
堀「困ることなどない。樺太は間宮林蔵先生が踏破し、精密なる地図も作成している。それに引き換え、西洋諸国は樺太は半島などと言っておったではないか。知りもしない場所が領土だと!?などと一笑にふしてやればよい」
川路「だが、我が国は世界に対して樺太が日本の領土であると宣言はしていない。それに対し、ロシアは宣言した。そして、久春古丹に軍事拠点を置き、実効支配している、と言っておるのだ。それに対しどう反論する、というのか」
堀「そ、それは・・・」
阿部「川路の言う通りだ・・・、世界に対し何か証拠を示さなければ」
川路・堀「・・・」
そこへ入ってくる忠優。
阿部「伊賀殿」
どかっと座り、持っていた地図を広げる。
忠優「これを」
広げられた地図、オランダの物である。
皆が身を乗り出し、地図を見る。
忠優「ここを見よ」
その地図には、樺太の真ん中にわずかに点線が入っている。
その点線を指さす忠優。
川路「こ、これは北緯50度の緯線・・・」
忠優「ではないぞ、緯線はこれだ」
堀「ということは、なんですか?この線は」
忠優「この点線、これこそ国境を表わしている線ではないか」
一同「!」
川路「ええ」
堀「まさか」
阿部も身を乗り出して興奮気味に
阿部「たしかに、この線は国境線だ。そしてこの線はどこの国の線かを見て見よ。我が国の北端ではないか」
確信に満ちた表情で頷く忠優。
忠優「この地図は日本の北端は北緯50度だと言っている。西洋諸国は日本の北の国境はここだと認めているという証明となる」
堀「そうか。これがロシアに対する国境交渉の材料に。これだ」
川路「うむ。これは有力な証拠となりますな」
喜ぶ三人をしり目に表情がかげる忠優。
忠優「この地図があるのも、そもそもは高橋景保(かげやす)らが国禁を犯しシーボルトに地図を渡したからか・・・」
あ、っとなる三人。
堀「怪我の功名というわけですな」
川路「これ、故人に対してなんという言いよう」
恐縮する堀。
阿部「堀!」
堀「は、はい」
阿部「アニワでの交渉、早速プチャーチンに主張するのだ。なんとか巻き返せ」
堀「ははー」
平伏する堀。

 

○樺太・久春古丹
再び場面、戻る。
堀「・・・」
村垣「堀殿、本当に行くのですか。北緯50度まで」
堀「行く。東岸と西岸と二手に分かれよう。そして国境に神社を立てる。ここが日本の北端なのだと」
村垣「・・・」
目を輝かせる堀。
堀をかわいく思う村垣。
村垣「間宮海峡まで行きますか」
堀、にやりとして
堀「行きたいなぁ。ぜひ見てみたい。西洋列強が樺太が島か半島か確認できなかったというその海峡を。そして偉大な先人、間宮林蔵先生がここ樺太が島だと証明したその風景を」
村垣、ニヤリとする。

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

開国の父 老中・松平忠固

PAGE TOP

© 開国の父 老中・松平忠固史 2020 All Rights Reserved.