開国の父 老中・松平忠固

【900】第7話 A4 『講武所』≫

○講武所
浜離宮の景観。
『講武所(浜御殿)』
南側の敷地に大砲が4挺備えられている。
弓術をやる者、槍術・剣術・柔術をやる者達がいる。
それを見物している忠優、阿部ら老中陣と軍政参与の斉昭、お付の東湖。
脇に解説役の高島秋帆がいる。
軽装の兵隊たちが行進している。
指揮官が号令をかける。
指揮官「マルス(進め)」
行進する部隊。
指揮官「ハルト(止まれ)」
指揮官「ゲーフトアクト(気を付け)」
止まって気を付けをする部隊。
指揮官「リユスト(休め)」
老中らは感心しているが、気に食わない斉昭。
斉昭「なんじゃ、これは。何で夷狄の言葉なのじゃ」

乗全「オランダ人から習っているので、それをそのまま使っているようで」
斉昭「こんなのはダメだ。とても上様や全国諸侯になど見せられぬわ」
忠優、嫌な顔をする。
阿部「ゆくゆくは和訳するにしても、とりあえずはこの号令で行きましょう。この講武所開設日の2月5日までもはや時間もない故・・・」
切れる斉昭。
斉昭「時間がないだと。とりあえずで異国とも条約を結ぶのか。とりあえず次から次へと異国と交わるのか」
一同、またかの顔。
斉昭「しかも異人が江戸に常駐するだと?おのれらは何を考えておる、参与たるわしに断りもなく、許さんぞ」
興奮している斉昭。
牧野「江戸ではありませぬ。下田にござります。それに御老公は軍政参与。職務範囲は軍政に限られ・・・」
斉昭「重箱の隅をつつくな。分かっておるぞ、伊勢や牧野は先日、上様に信任を受けたのでよい。この愚挙の主犯は三番と四番であろう」
乗全・忠優「・・・」
斉昭「お主ら2名は即刻辞任せよ。辞任をせねばこの講武所などわしが開設させん。どうじゃ、二つに一つじゃ」
老中陣「・・・」
うんざりの老中陣。
斉昭をたしなめる東湖。
東湖「まぁまぁ、大殿。新年早々ですから。どうでしょうか、皆様。此度の度重なる異国との条約締結、そして異人の下田常駐を許したことはおそらく全国三百余諸侯の誰しもが認めますまい。これらを鎮めるためにも、京にこの度のことを奏上し、帝から全国諸侯に下知して頂いたら」
忠優「!」
鋭く東湖を見る忠優。
乗全「京・・・」
牧野「み、帝に・・・?」
東湖「帝に厄難退散を祈願して頂くのです。そうすれば人心も落ち着くものと思われますが」
牧野「な、なるほど。それは一里ありますが・・・」
牧野、ちらりと阿部と忠優を見る。
阿部「・・・」
忠優「そんなことは、必要ない」
平伏したままピクッとなる東湖。
切れる斉昭。
斉昭「必要ないとは何だ、必要ないとは。おまえは帝を愚弄するつもりか。それでも皇国の民か」
忠優「愚弄とか皇国民でないとか、飛躍しないで頂きたい。帝は政とは無縁だ。これまで政で何も諮っていないし報告さえしたこともない。帝は神事や儀礼のみ行う、それは神君家康公から続くそれこそ祖法。今までしてこなかったものをなぜする必要があるか」
静まり返る場。
東湖が恐る恐る
東湖「これまで二百余年の太平とは大きく変わった非常の時。やれることは全てやり、変えるべきことは柔軟に対処していかねば乗り切れぬ事態と心得ますが」
忠優「・・・」
東湖を見ない忠優。
阿部「・・・」
忠優「では申し上げるが、御老公は徳川御家門ではないのですか。天下の副将軍家なのではないですか。帝を政の舞台に引き入れることは徳川の幕政を揺るがすことになりまするぞ。それが分かりませぬか」
斉昭「ぐっ」
東湖、やばいと表情で
東湖「幕政を揺るがすなどとは滅相もない。これだけ反対や拒絶の意見が充満する以上、それを和らげる一案としてどうか、と大殿がお考えになられたまでのことでございます。どうか伊勢守様、ご検討の程を」
阿部「うむ。御老公、いろいろと御心遣いかたじけのうございます」
忠優をにらみける斉昭。
忠優は視線を外している。

 

 

 

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