開国の父 老中・松平忠固

【902】第7話 B2 『忠優 vs 西郷』≫

○同・船着き場(夕)
夕日が傾きかける。
阿部らの観覧は既に終了し、薩摩藩士と見られる者たちが後片付けをしている。
そこへやってくる水野ともう一人。
もう一人は笠をかぶっている。
水野「遅くなって申し訳ない。船を少し見せて下さらんか」
タラップ手前に薩摩藩士。
藩士A「あぁ?、もう既に観覧は終了したでごわす」
水野「所要で遅くなってしまったのだ」
藩士A「船も整備しなければならん、また今度にしてくれ」
水野「そこを何とか」
藩士A「しつこいね、おまんはどこの御人か」
水野「勘定奉行・水野筑後守じゃ」
藩士A「か、勘定奉行・・・、仕方なか。少しだけでごわんど」

 

○甲板(夕)
清掃や整備をしている船員たちの中、見学している水野ともう一人。
機関室に入ろうとする。
藩士A「そこはだめばい」
止められる二人。
水野「機関室は見せて頂けないのか」
藩士A「別途許可が必要だ」
水野「ここを拝見できないと来た意味がない」
藩士A「乗れただけでもありがたいと思ってもらわねば。いくら幕臣といえでも遅れてきたそなたらが悪い。そんなに見たければ幕府も自分で作ったらいいばい」
水野「な、なんだと。公儀を愚弄するか」
藩士A「愚弄も何も、異人に屈して開国させられるなど情けなか政府はその程度たい」
水野「貴様、ぬかしおったな」
押し問答になる二人。
声「どげんしたと」
藩士の方が腕を振りほどき
藩士A「これは西郷どん」
西郷という名を聞き顔をあげるもう一人の男、忠優であった。

藩士A「いえ、この幕臣が機関室を見せろと」
二人を見る西郷。
西郷「・・・」
水野「上役の者か。わしは勘定奉行水野筑後守である。機関室を見せてもらいたい」
西郷、水野の後ろにいる男が気になる。
西郷「本日は公式の観覧会ではござらん。お引き取り頂きもす」
水野「なんだと」
西郷「時間に遅れる方が悪い」
水野「それは、連絡の行き違いで時間が間違っておって・・・」
西郷「連絡さえも正しく伝わらない・・・、それがご公儀でござるか、幕閣でござるか」
ピクッとなる忠優。
西郷「そのようなことでは余計にお見せすることはできないでごわす。それがたとえ、もしご老中様であったとしても」
ギロっと西郷をにらむ忠優。
なにっという驚き顔の水野。
忠優「・・・」
水野「・・・」
西郷「・・・」
忠優がおもむろに話し出す。
忠優「この蒸気船や並行して製造している西洋式大砲、これらはいったいどのように使用しようとお考えですかな。薩摩は」
西郷の顔を見る忠優。
その視線を正面から受け止める西郷。
西郷「どのように、とはどういうことでごわすか」
忠優「どこに対して使うか、ということじゃ。異国に対してというのは表向きで、実は公儀に対して使うのではないか・・・」
ぴくっとする西郷。
忠優「お宅の殿は謀反を企んだいるというもっぱらの噂・・・」
ぎろっとにらむ西郷。
西郷「根も葉もないことにごわす。そう言う者があれば、言わせておけばいいだけでごわす」
忠優「ほう、しかし火種は小さいうちに対処した方が賢明でござるぞ。そのうちどんどん火の勢いが大きくなれば手遅れになる。ひいてはお取り潰しなどの厳しいお沙汰へと発展致しますぞ」
西郷「・・・」
急に怖気づく藩士A。
藩士A「お、お取り潰し・・・」
水野「・・・」
西郷らの反応を見る忠優。
西郷「もし、ご公儀がそのように考えるのなら仕方がありません」
忠優「ほう」
西郷、目を一段とぎらっとさせる。
西郷「謀反を起こすまででごわす」
忠優「・・・」
水野「・・・」
西郷「そのような戯言を信じ、だまされるような幼稚な政府に従う薩摩ではござらん。また陰謀としてそのような手段をとるならば」
忠優「・・・ならば」
西郷「進んで改めさせねばなりませぬ。それは断固間違っておると」
忠優「・・・」
平然としている西郷。
その平然さを見てにやりとする忠優。
忠優「相分かった。失礼しよう」
水野「ご、御前・・・」
水野を連れて出ていこうとする。
船を降りす手前で振り返り、
忠優「貴様は名はなんといったか」
西郷「これは申し遅れました。西郷、西郷吉之助にございもす」
忠優「西郷か。覚えておこう。また会うこともあろう」
船から降りていく忠優と水野。

 

 

 

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