開国の父 老中・松平忠固

【906】第7話 C2 『松平慶永』≫

○忠優邸・大広間
忠優が商人の佐七・茂平を迎えている。
忠優「できぬか」
佐七「い、異人と商い・・・、でございまするか」
茂兵「異人を見ただけで目が腐り、近くに寄れば不治の病にかかると言いますが・・・」
忠優「ばかもの、そんなものは迷信じゃ。我を見よ、異人と会っても死んでないではないか」
佐七「・・・、恐れながら、それは御殿様のご器量が豊かゆえのこと・・・」
茂兵「我ら一介の商人では、とてもそれを打ち払う力はございませぬ・・・」
家老「殿、この者ども、佐七や茂兵は江戸での販売に専念させ、異人との件はまた他に人選をしては」
忠優「・・・そうか、もうよい。下がってよいぞ」
佐七「では、異人と商売しなくてもよいと」
うんざりという顔で、下がれ下がれと手を振る。
忠優「・・・」
頭を抱える忠優。
そこへ小姓が歩み出る。
小姓「殿、御来客です」
忠優「客?」

 

○応接室
応接に待っている慶永。

入ってくる忠優。
忠優「これは・・・。上様の従甥(じゅうせい)にあらせられる慶永殿が直々にこのような粗末な場所においでになるとは。言って下されば参ったものを」
慶永「ははは、なに。近くを通ったものでな」
向かい合って座る両者。
慶永「だが、伊賀殿。そなたももう少し大人になれぬものか」
忠優「?」
慶永「そうやって我ばかり通そうとするのでなく、周りの意見を聞きながら事を進めよ、と申しておるのだ」
忠優「・・・」
慶永「異人の駐在反対、交易などもっての外、というのは何も御老公だけの意見ではない。みんなそう言っておる。それに耳を貸さないというのはあまりに器の小さきことではあるまいか」
忠優、少しムッとなる。
慶永、得意げな顔で
慶永「わしはそなたのためを思って言っておるのじゃ。このままではそなたが老中を罷免させられる、それでは可哀想と思って気をまわしておるのじゃぞ」
忠優「・・・」
慶永「それにいま伏せっている阿部殿じゃ。わしは阿部殿と約束したのじゃ。わしが伊賀殿の老中罷免を食い止めるとな」
忠優「・・・」
忠優、ぶっきらぼうに
忠優「我は老中に留まりたいが故にしているのではない」
慶永、当然感謝されるものと思ったのに、つれない返事に驚き、
慶永「え?」
忠優「別に老中などやめてもよい、と申しておる」
慶永「な、なにを・・・」
微妙な空気が流れる。
慶永「わ、わしはそなたの為を思って言っておるのじゃぞ。それを」
忠優「人のことより、慶永殿、自分のことをやりなされ」
慶永「なにぃ」
忠優「己自身を見つめなされ。そして、公儀の前にまず自領・越前の政に専念なされよ」
慶永「・・・」
忠優「貴殿の話はつまらん。それは貴殿に自らの言葉がないからじゃ」
慶永「つ、つまらんだと」
忠優「では慶永殿は攘夷攘夷というが軍艦や大砲はどうやって作るのだ。その財源はどのように賄うのだ。また庶民の税を上げるのか」
慶永「そ、それは・・・」
忠優「公儀がオランダと同様にメリケンやロシアと交易するのだ、その利によって公儀が軍艦を作り、軍事力を増強するのだ。それのどこがおかしいか」
慶永「・・・」
忠優「それとも公儀が力をつけたら水戸や薩摩、越前など諸藩は都合が悪いのですかな」
キレる慶永。
慶永「な、何を言うかー。そ、そなたはこのわしをつかまえて、上様の従甥であるこのわしをつかまえて、公儀の邪魔をしていると言うかー」
忠優「越前殿やご老公のなされていることは結果としてそのようなことにしかなっていません。帝の件にしてもそうです」
慶永、はぁはぁと肩で息をしている。
忠優「帝に報告し、全国諸侯を鎮めてもらうですと?わざわざ帝に政治的権力をつけさせるなど、公儀の権威を自ら失墜させるだけのこれ以上なき愚策にござる」
慶永「ぐぬぬ」
忠優「神君家康公の江戸幕府統治の根幹を破壊なさるおつもりか」
慶永「ば、幕府二百余年の根幹を破壊しているのはどっちだ。鎖国祖法を破ったのはそなたではないか」
忠優「鎖国は家康公が行ったのではござらん」
慶永「もうよいわー」
ばっと立ち上がる慶永。
踵を返し立ち去ろうとするが、部屋を出る手前で振り返り
慶永「わしの厚情を足蹴にし、自分だけよければよいという薄情で傲慢なおぬしなど即刻老中を罷免してくれるわ」
立ち去る慶永。
忠優「・・・」
しばらく座り尽くす。
目を閉じ、居合を一閃。
抜いた刀を鞘に納める。
忠優「・・・」

 

 

 

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