開国の父 老中・松平忠固

【913】第8話 A1 『上田藩主、就任』≫

○森
深い森。
そこに走るいくつかの人影。
忍者のように素早く影が走っている。
崖を下り、小さな川を渡る。
5つくらいの影が走っていたのがいつしか3つの影となる。
立ち止まる2名の侍と忍者装束風の女性。
若き日の忠優(18)、八木剛介(22)と三千(16)。
剛介「どうやらまいたようです、殿」
忠優「うむ」
さわやかな笑顔。
剛介「チンピラどもめ。見たか、我らの健脚ぶりを。はっはっは」
街道に出る3人。
しばらく歩いていると前方に大男の男Aを中心に7人の男たちが道をふさぐように立っている。
それに気づき、歩を遅める3人。
剛介「くそっ、あいつらめ」
三千「いかがしますか、殿」
忠優、集中している顔。
忠優「いくぞ」

横一列で歩いていく3人。
前方の7人、ニヤニヤして待ち構えている。
剛介「・・・」
三千「・・・」
7人の前までくる3人。
男A「ここは通れんなぁ」
男B「通りたければ通行料をよこしな」
男C「へっへっへ」
剛介「たわけたことぬかすな。道を開けろ」
男A「通りたければ力ずくで通りな」
剛介「なにぃ」
男B「おい、こっちのやつ、女だぜ」
三千をつかもうとする男B。
三千に触れた瞬間、男Bの腕をねじり上げる三千。
男B「いてててて」
ほうり捨てられる
男C「やりぁがったな」
男Cが三千に飛びかかろうとして、剛介が男Cを突き飛ばす。
迫ってくる3人、4人と次々と張り倒す剛介。
と突然、衝撃と共に飛ばされる剛介。
大男の男Aが剛介を蹴り飛ばしたのだ。
忠優「・・・」
男A「通行料に加えて治療代も払ってもらわねぇとな」
不敵な笑みで上から見下ろす男A。
男D「へへ、おまえら、大将が出てきたらおしめぇだぞ」
男Aが男Dに着ていた上着をぬごうとした刹那、光る忠優の目。
男Aに飛びかかり、男Aの首に両足を絡める忠優。
そのまま男Aは倒され、忠優の両足で首を絞め上げられる。
男A「ぐぐぐっ」
首を絞められ悶絶する男A。
一瞬の出来事にあっけにとられていた男たち、その光景を見て
男B「こ、こ、このやろう」
男C「いきなり飛びかかるなんて卑怯者め」
忠優、卑怯という言葉に切れる。
忠優「倍以上の人数でどっちが卑怯か」
圧倒される男たち。
男たちを睨んでいる忠優。
ほっとして笑顔が出る三千。
忠優を見て感嘆の表情の剛介。

 

○城内・謁見の間
忠優が上段・上座で座り、家督相続の儀が執り行われている。
N「天保元年(西暦1830年)4月21日、松平忠優は伊賀守に任ぜられ、信州上田藩主に就任した。この時18歳。同年7月に上田に初入部し、9月に領内巡見を行った」

 

○桑園
巡見している忠優、剛介と三千、そして爺こと藤井三郎左衛門(46)ら一行。
桑園の様子。
桑の葉が茂っている木々。
桑園といっても雑木林のようなところで整った農園ではない。
そこから桑の葉が入った駕籠を背負い、歩いている女たち。

 

○養蚕所
女たちが大きなかごの中にその桑を入れている。
入れられた桑の横には白い虫が動いている。
蚕である。
何段重ねにもなって、蚕が育てられている棚。
大きな網の中に蚕を落とし込んでいる女たち。
そこから繭を出して籠に入れている係。
ぐつぐつとかまどで眉を沸騰させている係。
そこから糸を繰り出している係。
滑車を使って糸繰りをしている係。
それらを興味深く見ている忠優ら。

 

○応接間
忠優らが藤本善右衛門保右(やすすけ)老人から説明を受けている。
横には保右の息子・縄葛(19)。
忠優「ここは他よりみな生き生きしているな。やはり養蚕のおかげか、藤本善右衛門」
保右「はい。おかげさまで養蚕は気候に左右されませんので、生糸の販売は定期的な収入をもたらしてくれまする」
忠優「そうか。どうだ、善右衛門。もっとこの養蚕を振興して上田全体を支える産業とたり得ることはできまいか」
爺が口をはさむ。
爺「ですが殿。桑の植栽は御公儀によって禁じられていますゆえ」
忠優「やる前から否定するな。それは我の方でご公儀に働きかける。考えがある。きっとできるはずじゃ」
表情が曇ったままの保右。
保右「ありがたきお言葉。・・・ですが、現場としてはなかなか難しく」
忠優「なんだ、どう難しいのだ」
横の縄葛が話そうとする。
縄葛「それは・・・」
保右「縄葛!」
縄葛を制する保右。
以降、口ごもってしまう両者。
忠優「・・・」

 

 

 

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