開国の父 老中・松平忠固

【912】第7話 D4 『餞別』≫

○江戸城・外観
照り付ける真夏の太陽。
蝉がみんみん鳴いている。

 

○江戸城・謁見の間
忠優が家定に挨拶をしている。
家定は豆を煎っている。
忠優「上様、この伊賀、7年にわたり幕政を司る一員として上様のお力となれたこと、望外の至りにございました」
家定、興味なさそうに豆を煎りながら
家定「伊賀、お主、前に余に言ったことがあったな」
忠優「はっ」
家定「水戸のことは心配するな。任せろと」
忠優「・・・」
家定「水戸に負けて尻尾を巻いて逃げ出すか、お主も意外と口ほどにもないのぉ」
家定、おどけた顔が一変、鋭く忠優をにらむ。
忠優「・・・」
忠優も家定を凝視する。
忠優「ご安心下さりませ。懸案事項は全て片づけてあります。しばらくは落ち着いておりましょう。その間は着々と準備できます。我が日本国を富国強兵すること、その富国にしろ、強兵にしろ・・・」
家定「・・・」
忠優「講武所・海軍伝習所・洋学所の創設で強兵は目途が付き申した。しからば次にやるべきは・・・」

家定、豆を煎る手が止まる。
忠優「富国です。これは御老公ではできませぬ。これこそが我の仕事。そしてこのことは老中の職をしていてはできぬこと。今我が老中を辞任するのはまさに天の命でしょう」
家定「・・・」
豆をさらに移し替える家定。
家定「近こう。餞別じゃ」
豆を忠優に差し出す家定。
近づき受け取る忠優。
家定、顔を近づけ小声で
家定「伊賀よ。準備とやらはどのくらいでできる?」
忠優「は、急ぎまするが体制を構築するまで3年、始まるまでに5年はかかるかと」
家定「急げ。実は余はお主に言いたいことが・・・」
言葉が続かず黙ってしまう家定。
家定「・・・」
忠優「・・・」
『はっはっは』と突然笑い出す家定。
家定「この口ほどにもない奴め。下がってよい。余が見送ってやる」
忠優「・・・」
定位置まで下がり、平伏。
そして後ろ向きに廊下まで下がり、家定を見る。
見つめ合う家定と忠優。
そして、踵を返し、堂々と去っていく忠優。

 

 

 

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