開国の父 老中・松平忠固

【924】第8話 C4 『貨幣鋳造』≫

○上田藩邸・外観(夜)
井上が忠優と水野に報告している。
忠優「そうか。アメリカとの交易の第一商品は銅に樟脳、次に茶・・・か」
井上「はい」
水野「・・・」
忠優「・・・」
井上「それと、水野様。さっそくハリスが通貨の重量交換の件、言ってきました」
水野「そうか」
忠優「阿部殿にはその件、説明してあろうな」
水野「もちろんです」
忠優「で、阿部殿はその報告に対し、なんと言っておったか」
井上「それが、ここのところ体調を崩されておりまして登城されておりませんで」
忠優「そうか」
水野「以前にご説明した通り、1ドルの価値は1分にござる。やはりその要求は決して受け入れることはできませぬ」
井上「・・・」
水野「もし1ドルを3分にしてしまったら、1ドルを3倍の価値で交換しなくてはならなくなります。我が国にとって大きな損失でしょう」
井上「岩瀬殿は、重量において1ドルが3分であるのは事実、それを拒むことはこちらが未開な国だという指摘を免れぬのではないか、心配しておりまする」
水野「なんだと」
井上「水野様はおっしゃられておりましたな『我が国の産物を売って、それを富国強兵の財源とする、すなわち我が国から売ることのみを行う。我が国が異国から購入するものなどない』と」
水野「ああ」
井上「つまり、それは輸出のみを考え、輸入は考える必要がない、ということ。輸出のことだけ考えればいいのだったら、1ドルが3分になるなら利益が3倍になる、ということに他ならないではないか・・・」
水野「なにぃ」
井上「岩瀬殿はそう言うのです」

静まり返る一同。
井上「たしかに算盤上の計算だけではそうなりますが・・・」
忠優「なるほど・・・。あやつは本当に頭がよいの」
感心する忠優。
それに反応して逆上する水野。
水野「いや、計算だけの問題ではない。実際に3分ないものを3分として我が国国内では流通させておるのだ。そこは、絶対的に合わせなければ国内勘定はめちゃくちゃになる。それにドルと一分銀は実際に銀の品位も同じではない。単純な計算だけで決められるものではないぞ」
思わず感情を爆発させる水野。
井上「・・・」
恐縮する井上。
忠優、ふふふと微笑む。
忠優「・・・、そうだな」
遠くを見る忠優。
忠優「水野、大権現・家康公は天下を統一されたわけだが、征夷大将軍に任命され幕府を開く前に執り行ったことがある。それが何か知っておるか」
水野「は?、うーん、存じ上げませぬが」
忠優「考えでよい。何をしたと思う」
水野「・・・。ご公儀が成立する前に、でございますか。幕府を開く前なら勘定方というでもないですし・・・」
考え込む水野。
水野「本気で分りませぬ」
忠優「・・・」
すこしもったいぶって
忠優「貨幣の鋳造じゃ」
水野「え・・・」
忠優「幕府開設より2年も前に家康公は金座・銀座を創ったのだ」
水野・井上「!」
忠優「今の貨幣単位、両・分・朱、一両は四分、一分は四朱の四進法は元々かの武田信玄公が作りだしたものだがな。家康公はそれを幕府に先立って取り入れなされた」
水野「・・・」
忠優「この江戸二百五十年の繁栄の基礎はこの貨幣導入といっても過言ではないかもしれぬの」
水野「・・・」
忠優「おまえの感ずる通り、簡単なものではない。最も大事なことじゃ」
水野「はい」
忠優「金座の後藤に会うがよい」
水野「金座の後藤・・・。今はたしか・・・」
忠優「水越候時代の先代の後藤三右衛門家は贈収賄・私的流用等により斬首、お家断絶しておる。今は十四代目・吉五郎じゃ」
水野「・・・」
井上「・・・」
水野、ごくりと生唾を飲む。
忠優「貨幣に介入するのは尋常ならざること。疑念を招かぬよう阿部殿によくよく確認すること。勘定奉行の長い松平近直と隠居した石河政平にも相談するがよい」
水野・井上「心得ましてございます」

 

 

 

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