開国の父 老中・松平忠固

【925】第8話 D1 『橋本佐内』≫

○江戸市中
『安政3年(西暦1856年)11月11日』
薩摩藩邸から江戸城までの長い行列。
行列の先頭が江戸城内に入っても最後尾はまだ薩摩藩邸の中という長く、華やかな行列。
籠の中の篤姫。
『篤姫』

 

○江戸城内
家定と祝言をあげる風景。
家定の顔。
篤姫の顔。
斉彬の満足そうな顔。
斉昭、慶永も笑顔。
苦々しい顔で見ている直弼。

 

○料亭
豪華な料理を前に宴席を囲んでいる慶永と斉彬。
斉彬の後ろには西郷。
慶永の後ろには橋本左内(22)。
慶永「いやぁ、めでたいめでたい。上様と篤姫様の結婚の儀、つつがなく終わりましたな」
斉彬「ありがとうございます。だいぶ時間がかかりましたのでこちらも大きな肩の荷が一つおりました」
慶永「これでまた大きな前進ですな。篤姫様がご懐妊ということになれば、これほどめでたいことはござらん」
斉彬「はい。篤子は強い女子です。江戸城に入った以上、この斉彬の娘として立派にお役目を果たしてくれるでしょう。もしもの場合にも・・・」
慶永「・・・」

二人の表情が少し曇る。
西郷「・・・」
慶永、気を取り直して
慶永「今日は斉彬殿に目通りしてもらいたき者がござる。こちらにおる橋本左内じゃ」
平伏する左内。
慶永「元々藩医の出で大阪の適塾で蘭学を学んだ者での。幅広い見識を持つので今度わしの側に引き上げたのだ」
斉彬「ほう。あの緒方洪庵の蘭学塾ですな。なるほど。慶永殿もこれで蘭癖大名の仲間入りをされるのですかな。はっはっは」
慶永「西郷、特によろしく頼む」
西郷「はっ」
慶永「左内、一言挨拶せよ」
頭を上げる左内。
左内「はっ。此度は誠におめでとうございまする。しかれども浮かれている時ではござりませぬ。西洋諸国と我が国との差は圧倒的。一刻も早く我が国を改革し西洋に伍する国にしなくてはならぬと考えまする」
一同きょとんとする。
慶永「はっはっは。この通りまだ若いで突っ走りよる。だがそこがこやつの魅力かの」
斉彬「はっはっは。結構結構。では聞くが、お主の改革というのはいかなるものじゃ」
左内「・・・」
慶永を見る左内。
慶永、うなずく。
左内「はい。我が殿慶永公、そして薩摩斉彬候が幕政の中心に座ることでございます」
一同「・・・」
静まり返る場。
ぎろっとにらむ西郷。
慶永「大丈夫じゃ。周りは忍びで固めておる」
斉彬「口だけで唱えていても絵に描いた餅。で、実際どうすればよいと思う?」
斉彬から笑みが消え真剣なまなざし。
西郷も試すように左内を見ている。
慶永「・・・」
急に心配そうな表情になる慶永。
左内「我が殿が大老に就いて頂くこと」
斉彬「!」
西郷「!!」
慶永「・・・」
斉彬「た、大老だと!?」
西郷「・・・」
斉彬「大老職は井伊・酒井・土井・堀田の譜代4家に限定されておる。幕府二百五十年の歴史上親藩・御家門と言えども大老に推挙された例はない」
西郷「いかにも。それはとても夢物語に見え申すが」
左内「そうでしょうか。外様の薩摩様が幕政に参画することの方が夢物語。御老公が幕政に参加できるようになったのです、御家柄で申し分ない殿が大老になることもまた実現不可能ではないかと」
斉彬「・・・」
左内「殿は実権を握っている阿部伊勢守様の、そして薩摩様は最高権限者である上様のお義父上ではございませんか。私はできると確信しております」
斉彬、考え込んでいる。
西郷もなるほどと傾いていく。
左内「実際の次に打つべき手、それは現実の任命権者への働きかけと考えまする。それはすなわち老中首座・堀田備中守様」
斉彬「堀田殿じゃと・・・」
西郷「・・・」
まだハラハラしている慶永。
鋭い眼光の左内。
斉彬「なるほどな。慶永殿。あなたはまた素晴らしい人材を獲得なさいましたな。切れ味鋭い名刀のようじゃの」
感心する斉彬。
西郷も感心している表情。
ほっとする慶永。
左内、西郷を睨む。
その視線を平然と受け止める西郷。

 

 

 

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