開国の父 老中・松平忠固

【935】第9話 B3 『咸臨丸』≫

○品川・東禅寺参道
『安政4年(西暦1857年)8月4日』
参道に忠優と井戸、永井が歩いている。
永井「あの、あちらの方はどうなってますでしょうか」
井戸「なんだ、ハリスの登城の件か」
永井「あ、いえ、それもありますけど、あの、公方様の継承問題にございます」
井戸「・・・」
忠固は、ウキウキして耳に入っていない。
永井「ご老中は水戸の慶喜様と紀州の慶福様とどちらを御支持あそばれているのですか」
ムッとなる井戸。
井戸「そちがそのような心配をする必要はない。エゲレスが北京を攻め落とし我が国に迫ってきているという時に、そして一刻も早くアメリカと通商条約を結ばねばならぬ時に、御家騒動など笑止。そちは海軍伝習所にて寸暇を惜しんで海軍を整備する使命がある。そんなことを気に掛ける余裕などないはずだ」
永井「も、申し訳ございませぬ」
忠固「おい、見えてきたぞ」

 

○品川海岸
参道を抜けると軍艦が停泊している。
待っている水野。
浮かんでいる洋式軍艦、日本に来たヤパン号である。
一同「おお」
水野「私が購入したオランダの最新艦です。一昨年贈呈された観光丸は外輪船でしたが、これはスクリュー船です」
一同「・・・」
軍艦を眩しそうに眺める一同。
忠固「ついに来たな」
感無量の忠固。
忠固「永井、貴殿の海軍伝習所でいち早くこの船を使いこなせよ。そしてこの船で日本人の手で異国に行くのだ」
永井「は」
船を眺める二人。
忠固「そうそう、この船はな、そういった意味を込めて名付けられたぞ」
永井「そうでございますか。名はなんと」
にやりとする忠固。
忠固「まだ言えん」
永井「えーそんなー」
忠固「ははは、いい顔じゃ」
真剣な表情になり、
忠固「『咸臨丸』じゃ」
水野・永井「咸臨丸・・・」
忠固「咸臨とは易経で君臣が互いに親しみ合うことを意味する。君と臣が一体になり大洋を渡り世界に雄飛する、まさに我々にふさわしかろう」
水野「なるほど」
永井「咸臨丸・・・、良い名ですな」
忠固「間もなく通商交渉を始める。交易が始まれば、我は関税収入だけで年貢収入を超える歳入を得ようと思っておる」
永井「ね、年貢を超える・・・」
忠固「ああ。公儀の財政難は一気に改善する。この国は変わるぞ」
頷く水野。
永井「・・・」
財政の話はいまいち付いていけない永井。
みな、咸臨丸を改めて見上げる。
勇壮な咸臨丸の姿。

 

 

 

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