開国の父 老中・松平忠固

【961】第11話 A1 『要請』≫

○上田藩邸・外観(夜)
『安政5年(西暦1858年)4月22日』

 

○上田藩邸・道場(夜)
一心不乱に剣を振る忠固。
そして、大上段から剣を振り下ろす。
かしゃりと剣を鞘に納める。
忠固「上様に会うぞ」
端で見ていた剛介。
剛介「では明日早速手配を」
忠固、何か思いついたように
忠固「・・・。その前に掃部守に会う」
剛介「はっ。それでは明日上様にお会いになる前に」
忠固「いや、今から行く」
剛介「え?、今からですか?今からではもうすでに・・・」
一点を見つめる忠固、決意の表情。

 

○井伊邸・門前(夜)
門番が遠くから大きくなってくるひずめの音を聞く。
そちらを向くと馬が3頭眼前に現れる。
門番「な、なんだ、なんだ」
さっと馬からおりる3名。
剛介「至急、掃部守様に御取次ぎ願いたい」
門番「聞いとらんぞ、こんな夜分に、無礼であるぞ、誰だ」
剛介「老中松平伊賀守忠固様にござる」
門番「こ、これは。は、ただいま」

 

○同・寝室
寝ていた直弼。
家臣「お休み中、申し訳ございません、殿」
直弼「なんじゃ」
家臣「火急の用ということで、ご老中松平伊賀守様が参っております」
直弼「なにぃ」
飛び起きる直弼。
なんだ?、と考える直弼。

 

○井伊邸・応接間(夜)
待っている忠優に、入ってくる直弼。
忠優「夜分遅くたいへん申し訳ない」
直弼「何事じゃ、約束もなく」
黙って平伏する忠優。
下手に出る忠優にニンマリとする直弼。
直弼「唐突に、さらにこのような夜更けに、この溜間筆頭井伊家に訪問するなぞ無礼千万にも程がある。本来であったら目通りなどせぬところを格別な計らいを以て…」
それをさえぎるように
忠優「掃部守殿は」
直弼「む」
忠優「メリケンとの通商条約を進めるつもりでございますかな」
直弼「なにぃ」
直弼の顔を直視する忠優。
直弼「何をいきなり…、何なんだ」
忠優「昨日、堀田首座が上様に越前慶永殿を大老に推挙するよう進言された」
直弼「な、なんだと。越前が大老に?ば、馬鹿な。家門が大老になどなれぬわ。何を呆けておるか、備中は」
忠優「ですが、老中首座よりの正式なる推挙。これまで上様は政務は老中に任せてきた。それは任せたからには口は出さない、という上様の深い信任の現われ。であるからこそ阿部殿も我もこれまで長らく政務を取り仕切ってこられた」
直弼「・・・」
忠優「である以上、上様は老中首座の進言を無下にはしまい。そのまま容認してしまうことも充分あり得る」
直弼「な、なんたる事。越前が大老になったらそれこそ御継嗣は一橋になってしまう」
忠優、それは興味なしの顔。
忠優「確かに慶永殿が大老になれば、次期将軍には一橋慶喜公、後見役には水戸御老公、陰で操るは薩摩斉彬公、大奥は薩摩出の篤姫と政権が激変しよう。政策も当然変わる」
直弼「ぐぬぬ」
忠優「政策を変えさせなどしない。メリケンとの条約交渉は終わっているのだ。条約締結すれば列強の侵攻を防ぎ、さらに幕府財政を蘇らせることができるのだ」
直弼「む、むおう…」
じっと直弼の顔を見る忠優。
直弼「な、なんだ」
忠優、一旦目を閉じ、目を見開く。
忠優「掃部守殿に大老をお引き受け頂きたい」
直弼「!!」
時がとまったような空気。
一瞬嬉しそうなをするがすぐに険しい顔になる直弼。
直弼「わしに大老になれというか、お主が」
忠優「はい」
直弼「お主では大老にはなれぬからか」
忠優「…」
直弼「同じ大老家に生まれながら、江戸に生まれ10代で藩主となり、以来長く幕政の中心を担ってきたお主と、地方に生まれ15年も部屋住みで30過ぎて初めて上府したわし。それが今や立場は大逆転。しかもお主が頭を下げ、それを懇願する役目とは…」
忠優「…」
直弼「運命とは因果なものよの」
忠優、頭を下げたまま、受け止める。
忠優「ただし」
直弼「むっ」
忠優「通商条約はすぐに締結いたしますぞ」
直弼「…」
忠優「よろしいか」
直弼「あ、ああ」
忠優「万事にしきたりを大事にされる掃部守殿だ、武士に二言はありませぬな」
直弼「うう、そ、それならば貴様も小物は小物らしくしろ。わしの腰巾着として振る舞え。偉そうにするな」
忠優「・・・」
直弼「土下座せい、土下座して懇願せい」
忠優「!」
阿部の太刀を握り締める忠優。
忠優、土下座する。
直弼「はっ、わっはっは。で、就任はいつじゃ」
忠優「…。明日」
直弼「なにぃ明日だと。明日はわしの娘、千代姫と高松家との婚儀の日じゃ。また別の日に…」
ものすごい形相で直弼を睨む忠優。
直弼「わ、分かった。明日じゃな。婚儀は全て延期する。よし、そうなれば急ぎ準備をしなければならぬ」
立ち上がる直弼。
直弼「そちは段取りを頼むぞ」
出ていく直弼。
忠優、無表情。

 

 

 

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