開国の父 老中・松平忠固

【813】第1話 D1 『水野忠徳、登用』≫

○応接間
井戸が若手官吏を面接している。
若手A「異国船の対応など何年にいっぺんの事、来るかどうかわからぬことに気を病んでも無駄でしょう。仮に来たとしても毅然とお帰り頂ければよい」
場面が代わって別の若手。
若手B「先日のイギリス船が不届きにも浦賀沖を測量した際だって簡単に追い返したではないですか。しかもそれをしたのはお奉行、貴方ではないですか。なにをそんなに杞憂しているのです」
場面が代わって別の若手。
若手C「異国船が武力に訴えてきたら?そうなればこちらも反撃するまで。唐の国が戦に負けたというのも、唐人どもが油断したか、情けないだけでしょう。我が国は違います。もし我が国と戦になったら、この日本刀の切れ味を異人共は思い知ることになるでしょう。これこそ武士の望むところです」
ため息をつき、やれやれという顔の井戸。

 

○馬上
護衛に警護され、馬に乗って歩いている忠優と井戸。
忠優「人材はなかなかおらぬか」
井戸「はい。これはと思う人物と片っ端から面談しておりますが、皆判で押したような答えしか返ってきませぬ」
忠優「そんな中でこちらからこうして会いに行く人物というのは相当なものだな」
井戸「・・・」
口ごもる井戸。
井戸「大変言いづらいのですが・・・、こちらから会いに行かざるを得ない事情がありまして」
忠優「ん?」
井戸「実はこれから会いに行くその男、謹慎中でありまして。家から出られませぬ。有能な男ですが歯に衣着せぬ言動がありまして、上役に対しても平気で意見するものですから行く先々で嫌われまして。現在火付け盗賊改め方に飛ばされた挙句、謹慎しております」

忠優「・・・。なるほど。面白そうな男だな」
ニヤリとする忠優。

 

○水野邸・応接間
平伏して待っている水野忠徳(42)。
入ってくる忠優と井戸。
面会は井戸とするはずなのにさらに上座に座っている人物がいるのに気付く水野。
『水野忠徳』
水野「・・・」
井戸「水野忠徳、そちは異国船の来航についてどう思う?」
水野「・・・。十分な注意が必要でしょう。戦にならぬよう慎重に対応すべきと考えまする」
井戸「ほう、なぜ戦にならぬようにしなければならぬのか。まさかそちは戦を臆しているわけではあるまいな。戦は武士の本分、それを恐れていては腰抜けとのそしりを免れぬぞ」
水野「周りが何と言おうとかまいませぬ。ですが、戦は避けねばなりませぬ」
井戸「ほう、なぜだ。なぜそこまでして戦を避ける」
水野「それは・・・。申し上げにくいことにござりまする」
忠優の方を見る水野。
水野が忠優を見るので井戸もそちらを見る。
忠優「構わん。申せ」
水野「戦になれば・・・。この国は滅ぶでしょう」
忠優・井戸「・・・」
水野を鋭くにらむ忠優と井戸。
二人の反応を確かめる水野。
水野「・・・」
長い沈黙。
水野「むしろ滅んだ方がましかもしれません。実際は滅ぼされる手前で生かされ、奴隷国となって富を簒奪されるでしょう」
ぎゅっと握られる忠優の拳。
忠優「貴様は!」
怒られるのかと、忠優を見定めるように見つめる水野。
忠優「それに対してどうすればよいと思うのだ」
張り詰める空気の場。
井戸「・・・」
水野「異国を研究し、その技術を取り込む。そうして異国に負けない力をつける。時間はかかりますがそれしか道はないと」
忠優・井戸「・・・」
ばっと立ち上がる忠優。
忠優「よし。貴様は浦賀奉行になれ。この井戸の後継として海防を担当せよ」
水野・井戸「・・・」
驚く井戸。
さすがの水野も驚く。
冷静になろうと努める水野。
水野「じ、人事をそのように勝手に決めることはできないのではありませぬか?しかも、拙者は左遷中の職場でその上さらに謹慎中の身、困難の極地でございましょう、いかに御老中・松平伊賀守忠優様だとしても」
驚く井戸。
井戸「なに?そちはなぜ御前が忠優様だと」
水野「御尊顔を知らぬわけがございません」
ニヤリとする忠優。
忠優「海防は我の専任事項、首座の阿部殿の了解なら問題ない。追って沙汰が下ることになろう、準備をしておけよ」
立ち去る忠優。
すかさずそれに続く井戸。
あっけにとられる水野。
ニヤリとして平伏する。
N「嘉永5年(西暦1852年)4月15日、水野忠徳は浦賀奉行に就任する」

 

 

 

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