開国の父 老中・松平忠固

【842】第3話 C2 『お台場にて』≫

○御殿山
八つ山を切り崩して品川沖に台場を建設している。
大勢の人足と多数の船や建築資材でごった返している。
忠優と井戸、江川英龍が話している。
『江川英龍』
忠優「順調のようだな」
江川「はい。何せペルリが再来するまで一年とないのですから。突貫工事です。ですが・・・」
表情の曇る江川。
忠優「ああ。分かっている。このままではだめなのだな。作っても意味はないと」
江川「はい・・・」
忠優も表情が曇る。
遠くで指示を出している堀が見える。
忠優「あの男はどうだ」
江川「堀ですか。さすが伊勢守様のお眼鏡にかなうだけの男ではありますな。昌平黌上がりなだけに知力は折り紙付き。それにあのがたいですから馬力もある」
忠優「なるほど。あやつは一人ですべて完結する力がある。オロシア国が今長崎に来ておる。おそらくすぐに堀は蝦夷に派遣し北方の守りについてもらうこととなろう」
江川「となるとやはり・・・」
忠優「そうだな。オロシアについても国書は受領することになる」
井戸「御前!」

『そんなことを話して大丈夫か』と心配する井戸。
忠優「なんだ、井戸。江川殿は尚歯会にも参加していた最も近しい間柄ぞ。知らなかったか」
井戸「はっ」
江川「はは。用心に越したことはございませぬ。蛮社の獄の例もありますからな。あまり余計な口は開かぬ方が賢明でしょう。ん?」
向こうから仰々しい駕籠が来る。
何人もの御付きを従えて高位そうな男が近づいてくる。
江川「あれは・・・」
井戸「か、掃部守!」
忠優「・・・」
忠優の横に来る直弼。
直弼「これは、伊賀殿も視察に来ておったか」
忠優「・・・」
礼をする井戸と江川。
江川「掃部守様、台場普請の責任者であります韮山代官・江川英龍にございます」
直弼「うむ。首尾はどうか」
江川「順調にございます」
直弼「そうか。よろしい」
直弼、忠優の方を見て
直弼「ところで伊賀殿、ワシは伊賀殿がメリケンとの交戦論を唱えているというのはなにか解せないのだが、実際のところいかがなのですかな」
表情を変えない忠優。
直弼「『鎖国論』や数多くの蘭書を所蔵している伊賀殿のこと。聡明な伊賀殿がよもや御老公の愚かな意見と同じだとはそのようなこと、いかに考えておいでだ?」
井戸・江川「・・・」
緊張した面持ちで聞いている井戸と江川。
忠優「メリケンがあまりに不埒な行動を取り、我が国を蹂躙するようなことあらば、決死の覚悟で立ち向かう、それは当然のことかと存ずる。私はこの後閣議があるのでこれにて後免」
忠優、一礼して場を立ち去る。
井戸も一礼して立ち去ろうとするが、
直弼「井戸殿は閣議は関係なかろう」
立ち止まる井戸。
『どうします?』と目で訴える井戸。
『仕方なかろう』と目で合図する忠優。
すごすごと直弼の側に戻る井戸。

 

○台場
沖の台場にて工事が行われている。

 

○御殿山
直弼と井戸が話している。
直弼「メリケンと交戦などばかげておる。清国を見よ、為す術なく蹂躙され占領される憂き目にあってるではないか。交戦しようなどと言う者どもは頭が悪すぎる」
井戸、我慢して聞いている。
直弼「水戸の老人は元より空威張りの阿呆だが、貴様の親分も同様に阿呆だな。何が異国通だ。聞いてあきれるわ」
井戸、ぷちんと切れる。
井戸「お言葉ですが」
直弼「む」
井戸「伊賀守様は決して御老公のような短絡的な攘夷論ではござらん」
直弼「ほう。どう短絡的ではないのだ」
井戸「それは・・・」
直弼「ふん、なんだ、言えぬか。そらそうだわな。なにか深い考えを持っていると思わせておいて自分が教養があると周りに思わせるのがあやつの作戦であるからな」
かーっとなる井戸。
井戸「交戦するのもこの日本国を最短で西洋諸国に追い付く為の一つに方策にすぎませぬ」
直弼「ほう。では真の目的は」
井戸「交易です。交易することで一気に西洋諸国の技術を導入し追いつく、それこそが真の御前の考えでござる」
わずかに驚いた表情を見せる直弼。
しかしそれをおくびにも出さず、
直弼「な、なるほど。それは深遠な。さすがに伊賀守殿でござるな。これはいい話を聞かせて頂いた」
井戸の肩を叩いてその場を去っていく直弼。
井戸「・・・」
しまったという顔で不安そうに立ち尽くす井戸。

 

 

 

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