開国の父 老中・松平忠固

【849】第4話 A1 『ペリー再航』≫

○江戸
富士山を望む冬の江戸の町。
うっすら雪化粧をしている。
初詣に行く人々。
凧揚げや羽子板をしている子供たち。
正月の風景。

 

○江戸城・外観
門には巨大な門松が立っている。
『嘉永7年(西暦1854年)1月11日』

 

○同・大広間
大勢の大名諸侯が集まっている。
上座に老中陣。
中央に海防参与の斉昭、両脇に阿部と牧野、その両側に乗全と忠優。
下座の中央の空間通路をはさんだ両端に諸侯・江戸詰の家老たち。
両脇の最前列左側に松平慶永の顔。
最前列右側には井伊直弼の顔。
阿部「まさに国家の一大事である。此度のメリケン国からの国書に対していかにして応ずるか。通達は幕閣・御一門はもちろん、全国諸侯、はては一般大衆へも通達を出した。忌憚なく意見を述べてほしい」
静まり返る場。
斉昭、うぉほんと咳払いをして
斉昭「海防参与として発言する。外夷は再三の警告にも従わず我が国に土足で足を踏み入れ、しかもこの江戸表ののど元まで不埒にも侵入してきた。しかもあまつさえ大砲にて恫喝してきよった。そのような侮辱を受けながら、どうして黙っておられようか。ここは断じて我々日本人は脅しには屈しない、その不屈の闘志を見せつけねばならぬ。いよいよ戦の一字を決め全国に大号令を発するのじゃ」
『おお、そうじゃそうじゃ』『目にもの見せてくれる』『一刀両断じゃ』という賛成の興奮したつぶやき。
慶永「まさに戦意が高揚致しますな、ご老公」
斉昭「うむ」
満足げな斉昭。
斉昭「国書には両国が往来すれば大利益にもつながる、とある。もってのほかである。江戸開府以来全国を支えてきたのは倹約の倫理である。倹約こそ慎ましやかな国民性をはぐくみ、社会を安定させてきた柱である。貿易はこれをかく乱し富の流出を招くものである。通商などもっての外である」
忠優「・・・」
発言権の失ったままの忠優、無表情。
フンという顔で忠優を見る斉昭。

阿部「・・・」
賛意が支配的な場。
『異国と交わるなど穢れるわ』など声。
牧野「ですが、我が国には軍艦がありませぬ。戦力差は明らかでござりましょう。そのあたりはいかがなされますおつもりでしょうか」
牧野、斉昭を見た後、阿部を見て、
阿部「9月15日に大船建造を解禁致しました。まず御老公の水戸藩が石川島造船所にて旭日丸の建造に着手、薩摩藩島津斉彬公からは15隻もの艦隊建造の願い出を許可、公儀も浦賀にて洋式軍艦の製造を進めておりまる。加えて、長崎ではオランダより蒸気船を含む軍艦の買い付けを行っています。さらに、内海に進入する異国船を迎撃するための台場を品川沖に11基建造中です」
『おお』という声。
口々に『これならきゃつらに対抗できますな』などの声。
どうだというばかりの斉昭。
あいかわらず無表情の忠優。
不満顔の直弼。
後方に座る脇坂に目くばせする。
脇坂「おそれながら」
牧野「脇坂殿」
脇坂「戦、戦と言いまするが、大国・清国さえ西洋に敗れ国土を蹂躙されております。その辺りはいかにお考えか」
斉昭「戦をすれば負けるやもしれん。だが、戦を主とすれば、天下の士気を引き立て、たとえ初戦は負けても、何年何十年と機を伺い続け、やがて最後の最後には勝つ。しかし和を主とすれば、当面は平穏のようでも天下の空気は緩み、外夷の浸食により牙は抜かれ骨抜きにされ、後には大和民族滅亡へと至ろう」
『おお』『恐ろしい』『そのとおりじゃ』『卑怯成り、夷狄めが』
押し黙る脇坂。
直弼「くっ」
口惜しい直弼。
忠優「・・・」
忠優、目を閉じて聞いている。
そこへ使いAが飛び込んでくる。
使いA「申し上げます。下田沖に異国の艦隊が出現しました。蒸気船3隻を含むその数8隻から10隻。旗印からメリケン艦隊と思われます」
忠優「!」
阿部「!」
斉昭「!」
直弼「!」
一同「なにー」
驚愕する一同。
乗全「ばかな、まだ1月ぞ。きゃつらは春と申したはず」
阿部「確かにメリケン艦隊なのだな」
使いA「間違いございません」
『おい、どうするんだ』『まだ準備ができてないぞ』など大騒ぎとなる。
別の使いBが飛び込んでくる。
使いB「内海に進入してきた艦隊は浦賀、そして観音崎・富津岬間の打ち沈め線を突破」
牧野「打ち沈め線を突破・・・」
乗全「まさか江戸まで・・・」
斉昭「・・・」
苦々しい表情の斉昭。
一同「・・・」
一同、斉昭の顔を見るが黙したままの斉昭にわずかに不満の表情。
直弼「・・・」
平静を装いながら動揺の色を見せる直弼。
斉昭の表情を確認した後、忠優の方を見る阿部。
忠優、強くうなずく。
阿部、うなづき返す。
阿部「聞いての通りでござる。各部署・各藩は急ぎ防備体制を取れ。それと、町奉行はむやみに早半鐘を鳴らさないこと、町人には家業をいつも通り行うよう徹底し、もし騒ぎに乗じて無頼者が乱暴に及ぶなら即取り押さえよ、反抗する者あらば打ち殺しても構わん、急げよ」
一同「はっ」
平伏し、どたどたと退室していく一同。
斉昭「なんということじゃ」
などと言いながら下がっていく。
阿部「・・・」
忠優「・・・」
緊張した表情の二人。

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

開国の父 老中・松平忠固

PAGE TOP

© 開国の父 老中・松平忠固史 2020 All Rights Reserved.