開国の父 老中・松平忠固

【861】第4話 D1 『交易の決断』≫

○神奈川宿・高台
眼下に停泊している9隻の軍艦。
それを見下ろしている阿部と忠優。
脇に牧野と乗全。
岩瀬と江川が説明役をしている。
阿部「あれが黒船か」
岩瀬「右手が横浜の応接所、艦隊の奥に見えるのが上総の鹿野山になります」
牧野「なんという大きさ・・・、まるで島ではないか」
乗全「大筒が何十と積んである、言うなれば動く城ですな」
岩瀬「はい。あのような艦隊配置を組んでありますのは、おそらく応接所は言うに及ばず、湾の端から端まできゃつらの大砲の射程距離内に置いているのかと」
阿部「となるとそれは」
忠優「湾全体が制圧下に置かれている。すなわちいつでも火の海にできる、ということですな」
一同「・・・」
忠優「現時点では先手を取られたのは覆しようがない。可能な限りメリケンの要求を受け入れざるをえん。だがしかし、阿部殿、物は考えようぞ。向こうから強いられて交易をさせられると考えるから気分が悪くなる。あの黒船やきゃつらの技術を手に入れるために交易するのだと考えれば、こちらの術中にはめたと考えられるではないか」
阿部「・・・」
考え込む阿部。
牧野「きゃつらの要求である薪水・食料・石炭の提供は問題なかろう。しかし、交易は絶対に無理だ。そもそも我が国の何を売るのだ、売るものなどないし、売りに出せる物品の余りなどない。今でさえ飢饉の度に物品が不足し困窮するではないか」
忠優「飢饉を防ぐためにこそ交易するのです」
阿部「!」
牧野・乗全「!」
忠優「飢饉となる度に食うに困る。先だっての大飢饉でもそうだった。我が領地も悲惨極まりない状況であった。だがしかし、例を挙げれば我が領地・上田などは元から米は豊かに取れんが、代わりに生糸や紬がある。それを売ることができれば食料を買うことができる。飢饉を乗り切ることができるのだ」
阿部・牧野「・・・」
乗全はいつも聞いているので、うんうん頷いている。
牧野「し、しかし、倹約・質素を美徳とする我が国は交易そのものを推奨しておらぬし、異国となると物品の価値も価格も違う、やはりとても現実的とは思えぬが」
忠優「もちろん今すぐにということではなく、5年間の試験期間を置く、ということでいいのではなかろうか。そのようにすればこちらも準備ができるし、きゃつらも要求が拒絶されなかったと満足できる」
阿部「・・・」
考えあぐねる阿部。
阿部の様子を伺う牧野。
阿部、遠くの黒船を見ながら
阿部「交易を条約に盛り込むことは断じてできぬ」
射抜くように鋭い視線で阿部を見つめる忠優。

阿部「であるので、交易という文言は使わず、薪水・食料・石炭、その他必要な物品を供給し、金銀を以て支払いとする、という文言にしたらどうか」
忠優の方を向き直り、
阿部「それならば、それは結果的に交易が始まる、ということになる」
忠優「・・・」
しばらく考え、頷く忠優。
忠優「結構でござる」
頷く阿部。
阿部「開港地は北方は松前でなく函館。これは天領であるし、既に堀織部正を派遣しているので異存なかろう。東南は下田でよろしいであろうか。下田は江川の管轄地であり、彼の者なら異国の文明を吸収する力を有しておるが」
江川がお辞儀をする。
忠優「それでよろしいかと」
牧野・乗全も頷く。
そこにいる全員、決意の表情。
眼下に停泊するアメリカ艦隊。

 

 

 

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