開国の父 老中・松平忠固

【875】第5話 C3 『自首』≫

○海岸(早朝)
海岸に上っている朝日。
砂浜をかけている二人の男。
松陰と金子。
決死の形相。
浜に打ちあがっている船に駆け寄り、中を見る。
中を確認したら、さらに向こうの船の中を見る。
はぁはぁ息を切らす二人。
金子が座り込む。
松陰「もはやこれまでか」
金子「せ、先生、これまでとは・・・」
松陰「止むをえまい、番所に自首しよう」
金子「な、じ、自首でござりますか」
松陰、うなずく。
金子「わざわざ自首することはないではないですか。まだ朝は早い。幸い誰も見ておりませぬ。このままこの場を立ち去りましょう」

松陰「そうはいかん。船には刀や荷物が置きっぱなしだ。乗っていたのは我らだということはすぐに明らかとなろう」
金子「密航を図った、などとは誰が思いましょう。異人共が言わない限り誰も知りません。我々は海に落ちて命からがら助かった、ということでよいではありませぬか」
松陰「・・・」
考え込む松陰。
松陰「金子君、仮にこのまま立ち去ったとしよう。後でお縄になった時、君はその虚言をお上に吐き続けるのか。その時のお主の心はどうなっておる?」
金子「・・・」
松陰「虚言を吐いている自分に耐えられまい。良心の呵責にさいなまれ、虚言を認めることとなろう。そうなれば君は嘘つきだ、一生嘘つきと後ろ指をさされることになる」
金子「一生、嘘つき・・・」
松陰「そうだ。我らが図った密航、それは確かに国禁だ。国の法を破った重罪だ。だがしかし・・・」
強い決意の表情の松陰。
松陰「それはこの国のために、今のままではだめだ、国こそ変わらなければならぬのだ、という強い確信、信念を元に取った行動である。そこには一片のやましい気持ちはない。一片の私心もないのだ」
金子「・・・」
松陰「行こう、金子君。そして堂々と訴えよう。それで裁かれるのなら、自らの信念によって死ぬる、それは武士の本懐であるぞ」
金子「武士の本懐・・・」
松陰「そうだ、それこそが武士だ」
金子「はい!」

 

○番屋・中(朝)
飯を食べている上役の元に番士が慌てた顔で入ってくる。
番士「あのう、何でも密航を図ったとかで二人の侍が来ておりますが」
上役「なにぃ」

 

○番屋・前(朝)
立っている松陰と金子。
表に出てくる上役。
上役「密航を企てただと」
松陰「はい」
上役、松陰と金子を上から下まで眺める。
上役「貴殿らは身分のある者と推察する。悪いことは言わねぇ、このまま立ち去りな。このことはなかったことにしておいてやる」
松陰「そういう訳には行きませぬ。我らは確かにペルリ提督やウイリアムズ殿と会見したのだ、そして密航を図ったのだ。武士として虚言を申すことは断じてできん」
強くうなずく金子。
上役・番士「・・・」

 

 

 

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