開国の父 老中・松平忠固

【887】第6話 B3 『日英初交渉』≫

○長崎・大通り
長崎の大通りを進む英国艦隊使節。
大勢の英国兵に先導され、数基の騎馬に乗る将校。
その行列を珍しそうに見る長崎市民。
その行列が長崎奉行公邸に入っていく。
『長崎奉行公邸』

 

○長崎奉行公邸・応接室
四角いテーブルを前に水野と永井が立っている。
緊張の表情。
コンコンというノックの音。
『入れ』と部下の声。
入ってくるスターリングや将校たち。
その中に中国人通訳の格好をした音吉。
全員入り終わると、両者立ち尽くす。
一同「・・・」
永井「どうぞ。おかけ下さい」
永井がまず座って見せる。
英国勢も座る。
そして、沈黙。
一同「・・・」
水野「長崎奉行・水野筑後守でござる。こちらは御目付・永井岩之丞。貴殿らはエゲレス国の方々とお見受けする」
こそこそと通訳する音吉。
スターリング「英国貴族のサー・ジェームス・スターリング提督である。我々は大英帝国海軍東インド・チャイナ艦隊である」

スターリングが英語で話し、音吉が日本語で通訳する。
水野「エゲレスの方が何の御用か。御国とは国交はないはず。薪水は供与しよう。荷の積み込みが終わったら、即刻立ち去ってもらいたい」
スターリング「未開人よ、そのような態度をとってよいのか。我らは世界の超大国、大英帝国だぞ。ま、地の果ての未開の国では世界の状況など知るわけがないか」
水野「み、未開だと。エゲレスが礼儀知らずの野蛮な国であるのは知っておる。50年前のフェートン号事件では、オランダの国旗を偽って掲げて長崎港に入ってきたからな」
さすがに止めに入る永井。
音吉「・・・」
水野を睨む音吉。
音吉「そんなことを言ってよいのですか」
水野・永井「!」
永井「おまえ、日本人か」
音吉「・・・」
水野「日本人のお前がなぜ唐人の格好をしておる?。いや、なぜエゲレス人などと一緒におる?」
問いには答えない音吉。
音吉「英国がその気になれば、すぐにでも江戸を灰燼に帰すことができますよ。それでよろしいわけですか」
水野・永井「・・・」
にらみ合う音吉と水野。
水野「おまえらの目的は何だ」
音吉「我々は当然、アメリカと条約を締結したことを知っています。イギリスとロシアが開戦したのは知ってますか?」
水野「・・・、ああ」
音吉、スターリングに伝える。
スターリング「現在、我が国はロシアと交戦中である。ロシアの艦隊が長崎に入港していると聞く。今はいないのか」
水野「・・・」
永井「ロシアの船は確かに長崎に来ていた。だが今はいない」
スターリング「クリミアのロシア艦隊はすでに殲滅した。黒海が閉ざされたロシアは極東のカムチャッカに進出している。これをわが軍が撃退するのが使命である。しからば、日本のあらゆる港に寄ることができることを約束してもらいたい」
水野・永井「・・・」
永井、音吉に
永井「それは、日本のすべての港を開港せよ、ということか」
音吉「そのように提督は言っておられます」
水野・永井「・・・」

 

○出島・オランダ洋館
水野と永井が椅子座っている。
脇には役人が3名立っている。
ドアが開くともに立ち上がる二人。
入ってきたのは音吉。
椅子の脇まで歩み寄って止まる。
その一挙手一投足を食い入るように眺める水野と永井。
音吉「・・・」
二人と目を合わせずに立ちすくむ音吉。
お辞儀をする。
役人A「き、きさまー、平伏せんか」
緊張が走る場。
冷たい目で助手をにらむ音吉。
音吉「なぜそんなことをしなければならぬのです」
役人A「きさまは日本人だろうが。漁民だろうが」
音吉「私は!」
言葉を遮るように
音吉「私は日本人ではありません。日本人だったらなぜあの時助けてくれなかったのですか」
え?っとなる水野達。
音吉「14か月も漂流した挙句5年ぶりに帰ってきたモリソン号の時。5年前にマリナー号で浦賀に来航した時。受け入れてくれなかったじゃないですか。帰らせてくれなかったじゃないですか」
口をつぐんで小さくなる役人A。
険しい顔の水野。
音吉「待ち焦がれた母国から砲撃された時の気持ちが分かりますか。日本に帰ってきておきながら私は日本人だと名乗れない悔しさが分かりますか」
水野「・・・」
音吉「私は日本に裏切られたのです。日本に捨てられたのです。エゲレス艦隊でやってきた理由?そんな私が日本とエゲレスとの仲を取り持つためにやってきたわけがないでしょう」
青くなる助手。
音吉「復讐ですよ。復讐。日本などエゲレス艦隊にかかれば赤子の手をひねるかのごとく蹴散らすことができますよ」
静まり返る場。
音吉「めちゃくちゃにしてやりますよ」
冷たく笑う音吉。
水野「・・・」

 

 

 

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