開国の父 老中・松平忠固

【895】第6話 D3 『日露和親条約締結』≫

○江戸城・老中部屋
阿部・忠優・斉昭に報告をしている堀と川路。
阿部「堀織部、よく戻ったな」
堀「帰府そうそう御目通り頂き、恐悦至極。しかし北方の状況は一刻を争います。北方の防備はまるで皆無と言っても過言ではありません。であるのに、異国船、特にロシア艦船の往来はげしく、上陸し占領しようと思えばあまりに容易に成し遂げられましょう。一刻も早く北の守りを固める必要があります」
斉昭「蝦夷地防備など分かりきっておるわ。わしなどとうの昔から進言しておる。奉行を増やし、大阪城代・若年寄格の人物を派遣しろと・・・」
堀「身分や地位で治められるものではありません。寒冷不毛の地、江戸で殿さま育ちでは住むことさえできませぬ」
斉昭「ぐっ、き、きさま。なんたる口を・・・」

阿部が割って入って
阿部「上申は読んだ。至急対応する」
堀「それと、プチャーチンに大阪回航を許した責任を・・・」
忠優「そんなことはどうでもよい。船が早いは当然じゃ。下田交渉の経過を聞け」
堀「・・・」
川路「条約はメリケン・エゲレスと結んだものとほぼ同じものです。開港地は下田・函館・長崎。問題の国境ですが、択捉島と得撫島の間。樺太は従前通り両国の不分割ということで落ち着きそうです」
斉昭「なにを甘いことを言っとるか。せっかく神風が吹いたのだ。そんなロシア人など斬って捨ててしまえ。津波に飲まれたとでも言えばよいわ」
忠優、ムッと口を開こうとしたその刹那
むせび泣く声に思いとどまる。
見ると隣で川路がむせび泣いている。
川路「・・・。プチャーチン殿は我が国国民を救助して下さったのでござるぞ。転覆しかけた船で我が身を省みず外国人を救ったのです。その恩人に対して何たる暴言・・・」
斉昭「ん・・・、んん」
気まずい表情の斉昭。
川路「もし斬って捨てたりしたら、我が国は犬にも劣る畜生の国とのそしりを免れないでしょう。いえ、外国からどう思われるかなどどうでもよい。日本人として恥ずかしい、情けない」
斉昭「・・・」
忠優「・・・」
一同「・・・」
川路「我が国の人間はそんな受けた恩に報いないような、そんな徳の低い民ではないはず。そうでございまするな」
斉昭「そ、その通りだ」
川路「そのようなことはお戯れでおっしゃられたことにござりまするな」
斉昭「む、無論だ」
落ち着いたところで阿部が口を開く。
阿部「現在、ご老公を中心に軍制改革がすすんでおります。しかしながら、海軍、陸軍、洋学所の設置までは道半ば。ここは時間稼ぎの為にもロシアとも条約を結んでおくことが得策でしょう」

 

○下田・長楽寺
プチャーチンと川路・筒井全権。
机に座り、条約締結の書面を交換している。
N「安政元年(西暦1855年)12月21日、ここに日露和親条約が締結された」

 

 

 

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