開国の父 老中・松平忠固

【897】第7話 A1 『京』≫

○京都
『京』
安政内裏と言われる京都御所が再建されている。
『安政元年(西暦1855年)師走』
雅な京都の風景。

 

○江戸
頑強な江戸城の風景。
『江戸』

 

○阿部邸・外観

 

○同・子供部屋
子供が布団に寝ている。
可愛い寝顔。
その脇に阿部と妻・謐子。
暮の挨拶に来ている慶永と斉彬。
慶永「医者はなんと」
謐子「流行病だから直に治るはずと」
斉彬「・・・、伊勢殿、蘭方医にかかったらどうかね。漢方医とはまた違った知見が得られると思うが」
阿部「・・・、薬の飲み合わせが悪くなっても困る故・・・」
斉彬「・・・」

手元にはお歳暮の包み。
阿部「謐子、御父上と斉彬殿から西洋菓子を頂いたぞ」
謐子「これは珍しいものをありがとうございます」
慶永「ビスカウトじゃ。頬が落ちる甘い菓子ぞ。元気が出ると思うてな」
謐子「ありがとうございます・・・」
汗をかいている子供の寝顔。
斉彬「去年亡くなったワシの息子虎寿丸の分まで早く元気になってほしい」
阿部「・・・」
斉彬もつらい表情。
涙ぐむ謐子。

 

○同・居間
美しい日本庭園。
それを眺めながら話す阿部、斉彬、慶永。
庭には西郷がいる。
慶永「それにしても、今年はなんと大困難の重なった年だったかのぉ」
阿部「思い出したくもない一年でござった。年初めのペルリ来航、3月3日の日米和親条約締結、4月6日には京の内裏焼失。そして伊賀上野・豊予海峡の地震に加え、11月4日、5日立て続けに発生した東海・南海の巨大地震・・・」
斉彬「百年に一度、いや二百年に一度の厄年でござったな」
阿部「多くの人間が死に申した・・・。安政に改元したが、厄が落ちてくれるのを祈るばかりじゃ」
慶永・斉彬「・・・」
顔を見合わせる慶永と斉彬。
二人の表情がさらに曇る。
慶永「伊勢殿、伊勢殿にとっては後厄が続くかもしれぬ。震災復興問題もあるがやはり困難は異国問題。メリケン・ロシア等と条約を結び、しかも異人を我が国に駐在させるのを認めたという。これの拒絶・非難は年明けからいきなり烈火のごとく吹き荒れるであろう」
阿部「・・・」
斉彬「御老公は、京の扱いについても追及されるかと存ずる」
意外な顔の阿部。
阿部「京?焼失した内裏の再建は順調でござる。年明けには完成しよう。平安様式に倣った厳かな造りにござるぞ」
斉彬「いや、厄落としに改元した『安政』じゃ。新しい元号じゃ。師走になろうかという11月27日などという日に突然安政元年と言われても、と京は不満の様じゃ。しかも京では『安政』などではなく『文長』にしたかったらしい」
阿部「制定日は、前の上様・家慶様の月法要が終了した後じゃ。何がおかしいことがあるのか」
斉彬「・・・」
斉彬、意を決して
斉彬「伊勢殿・・・、伊賀殿をはずせぬか?」
阿部「!」
慶永「・・・」
西郷「・・・」
斉彬「今度の幕政に対する責任追及はおそらく誰ぞが責任を取らねば収まらぬ状況だと存ずる。となると、伊賀殿しかない。伊賀殿が辞めれば御老公も収まると思う」
慶永「わしもそう思うぞ、伊勢殿。ここは決断のしどころかと思う」
阿部「それは無理だ。今後も伊賀殿は絶対に必要な人材だ。伊賀殿がいなければこの異国との難局を乗り切れない。それだけはこの伊勢守、断じて譲ることはできん」
予想外の強い拒絶に驚く慶永。
慶永「・・・」
やはりかという顔の斉彬。
斉彬「・・・」
阿部「伊賀殿は絶対に私が守る」
慶永「・・・」
斉彬「・・・」
庭で聞いている西郷。
西郷「・・・」

 

○同・門までの道
斉彬と西郷が歩いている。
西郷「殿・・・」
斉彬「うむ、想像以上に伊勢殿の伊賀殿に対する信頼は厚いようじゃな」
西郷「御意」
斉彬「だが、伊勢殿には申し訳ないが伊賀殿には公儀から退場してもらう。あの二人が不動な限りこの斉彬が公儀に参加すること叶わぬからじゃ」
西郷「はい。では京の札を・・・」
西郷「うむ。それに雲行丸の札も使う。御老公の参与退任の札と合わせて、一気に勝負に出るぞ」
西郷「はっ」
籠のところに来る。
駕籠に乗る斉彬。
西郷、脇に伴い籠が去っていく。

 

 

 

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