開国の父 老中・松平忠固

【898】第7話 A2 『赤松小三郎』≫

○寺・境内(夜)
通夜が行われている。
『江川家』の提灯。
多くの人が弔問に訪れている。
『安政2年(西暦1855年)1月16日』
焼香をしている人々。

 

○同・縁側(夜)
忠優、川路らが通夜料理の鮨を食べている。
忠優「江川が逝ったか。54歳・・・、まだまだ働いてもらいたかったぞ・・・」
川路「台場に反射炉建設、造船技術向上に爆裂弾開発と余りに激務でしたからな」
忠優「思えば江川にも貴様にも初めて会ったのは崋山を通してだったな」
川路「はい。崋山先生主催の尚歯会でした。先生や高野長英に続き、江川も。大事な人がみないなくなってしまわれる。象山も松代で蟄居の身。高島先生は健在だが西洋技術習得の今後が心配です」
御猪口を前に3つ置き、杯を掲げ、日本酒をくいっっと飲み干す忠優。
川路「・・・」
川路も杯を掲げくいっと飲み干す。

 

○同・庭
忠優たちが座っているのを見ている高島秋帆と内田五観(50)。
高島「五観よ、そろそろ大丈夫そうだぞ」
五観「おお、そうですな」
高島「わしは先ほど済ませたでな」
五観「そうですか、それでは私はご挨拶に言ってまいります。おい」
後ろの弟子を連れて忠優の方へ去っていく五観と弟子。
声「先生」
高島「おお、撰之助か」
振り返ると、中居撰之助(35)がいる。
中居「この度は『集要砲薬新書』の序文を書いて頂き、誠にありがとうございます」
手元に持っている本を見せる中居。
高島「いや、礼には及ばん。お前の火薬の研究はわしも大いに勉強になる。で、本当に出版するのか」
中居「はい。秘伝にするつもりはありません。広く公開して、世界の恐るべき進歩を知らしめ、一刻も早く皆に覚醒してもらいたいのです」
高島「ふふ、そういう意味ではお前の二人の師匠である江川と象山とでは、象山の教えの方が色濃くでているようだな。秘伝を旨とする江川は草葉の陰で悔しがっておろうな。ははは」
中居「ところで、五観先生がご挨拶しているのはどなたですか」
高島「ん?ああ、上田候じゃ。ご老中・松平伊賀守忠優様」
中居「う、上田の殿様ですか。あ、あのお方が」
後ろに控える若者を見て
中居「な、なぜあの若者は殿に紹介されているのです」
高島「ああ、あれは五観の弟子で上田藩士だからの」
中居「う、上田藩士・・・」
高島「なんだ、おまえもご挨拶したかったか。ああ、なるほどそうか。おまえも真田出身だったな。行くか」
中居「い、いえ。そんな恐れ多い・・・」
五観たちを遠目で眺めている中居。
中居「・・・」

 

○同・縁側
飲んでいる忠優と川路。
声「お話し中、失礼します」
二人が振り向くと平伏している五観と弟子。
忠優「五観か。そうか。そちも江川とは縁が深かったの」
川路「内田五観・・・。たしか江戸湾測量の時に江川の助手をしたな」
五観「はい。ですが、当時の目付に妨害され、満足な働きができませんでした。あの鳥居耀蔵です。ですな、御前」
忠優、苦笑いをする。
五観、改まって
五観「御前、江川先生の通夜の席をお借りして恐縮ですが、本日はぜひ御目通りして頂きたき者がありまして」
忠優「ほう」
五観「我が数学塾『マテマチック』の門弟で、上田藩士の者です」
忠優「なに、上田の」
五観が招き入れる。
顔を地に伏せながら進み出る若者。
五観「赤松清次郎にございまする」
清次郎「赤松清次郎にござります。殿」
忠優「うむ、苦しゅうない。面を上げよ」
顔を上げる赤松清次郎(24)。
清次郎、顔を上げるが目は伏せたまま。
五観「この赤松はマテマチックでも最優秀でしてな。特に蘭語の習得に関しては目を見張るものがあります」
忠優に近づき小声で
五観「この男は天才です」
忠優「・・・」
赤松「と、殿に拝謁できるなど、き、恐悦至極。末代までの・・・」
忠優「蘭語が達者であるようじゃの」
赤松「え、は、はい」
川路が忠優に小声で
川路「御前、この者・・・」
忠優、『分かっている』という風に頷く。
忠優「うむ、お主、異人と会ったことがあるか」
赤松「!」
緊張がなくなり、真剣な表情になる。
赤松「ございません」
忠優「会って話したいか」
赤松「!」
初めて目を上げ、忠優を見る。
忠優も赤松の表情を見るのに集中している。
赤松「会って話しとうございます」
忠優、目をきらきらさせている赤松に満足し、
忠優「よし、この7月に長崎に海軍伝習所が発足する。オランダ人から蒸気船の操作技術を学ぶのが目的だ。お主、それに参加するか」
赤松、いきなりの話に驚くが、すぐに決意を固めて
赤松「参加しとうございます」
忠優「よし。いい間だ。川路」
川路「はっ」
忠優「手配を頼む」
川路「かしこまりましてございまする」
忠優「五観、赤松、会えてよかったぞ。これも江川の導きかもしれんな」
五観・赤松「はいっ」
下がろうとする二人。
それを呼び止める忠優。
忠優「そうそう」
下がっていた赤松、顔を上げる。
忠優「赤松、お主は商いはどうか?」
赤松「あ、商いにござりますか。あいにく商いはやったことがござりませんので勝手がわかりませぬが」
忠優「・・・」
表情を読み取る忠優。
忠優「そうか。下がってよいぞ」
下がっていく二人。
忠優「・・・」

 

 

 

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