開国の父 老中・松平忠固

【909】第7話 D1 『堀田備中守』≫

○忠優邸
忠優を上座に、下座最前列に井戸と石河。
二列目に川路と水野。
三列目に井上が座っている。
井戸「そういうことにございましたか。にしても、阿部様のご負担が倍増するのは必定、先日も体調を崩されたばかり。心配です」
忠優「うむ。それは当然考えておる。実は阿部殿も老中首座を退き、他の者に矢面に立ってもらう段取りじゃ」
一同「え?」
石河「阿部様が首座を降りられるのですか。それはさらに心配が増すこと。阿部様以外首座が務まるとは思えませぬが」
水野「いったいどなたが次の首座におつきになられるのですか」
忠優「堀田備中守殿じゃ」
井戸「堀田様・・・」
石河「備中守・・・、佐倉候・・・」
水野「東随一の蘭癖大名の佐倉候か・・・、なるほど」
川路「堀田候ならば異国との交渉を前向きに進めることは間違いありませぬな」
井上、冷静な表情で
井上「恐れながら」
皆、振り返り井上を見る。
井上「堀田候では阿部様の代わりは務まりますまい。大老を輩出した堀田家で元老中とはいえ、現在詰めている溜間は一代限り、門閥の巣窟・溜間の抑えも疑問な上、申し訳ありませんが、御老公ら御親藩や薩摩様ら外様勢を抑えられるとは到底思えません」

一同「・・・」
押し黙ってしまう一同。
心配そうに前に向き直り、忠優を見る一同。
忠優「相変わらず冷静な男よ、井上。であるからこそ、実権は阿部殿のまま、堀田殿は言うならば員に備わるのみじゃ」
水野「員に備わるのみ・・・、飾り・・・?」
井戸「そ、そんなうまく運ぶでしょうか」
一同「・・・」
不安を払しょくできない一同。
忠優、少し考えて
忠優「政の実権はどうしたら握れると思う?」
唐突な質問に面食らう一同。
忠優「質問を変えよう。我と阿部殿はどうして実権を握れていると思う?そして堀田殿は首座でありながらなぜ実権を握れぬと断言できると思う?」
一同「・・・」
水野「それは個の能力にござりましょう」
川路「ですな。御器量が全てでござりましょう。天下を動かす力など」
ニヤリとする忠優。
忠優が井戸・石河を見ると二人はニヤリとしながら頷く。
答えを知っているのだ。
最後、答えていない井上を見る忠優。
忠優「井上は如何に思う」
井上、仏頂面で
井上「私は身分の低き生まれにて、天下のことなど到底わかりませぬ。しかし日々実務をこなしていて忠優様や阿部様がどうして実権を持たれているかは分かります」
水野、川路が井上の方を振り向く。
石河「ほう、それは何か」
井上「財務にござります。財務を握っていなければ国を動かしていくことなどできません。財務に疎ければ国が傾きやがて滅びます。分かっていれば必要な方向に力を注ぐことができます。財務担当者を掌握する、それこそが政の力の源泉・・・、と愚考致しまする」
水野・川路「・・・」
頷いている石河と井戸。
忠優「まさにその通り。満点だ。この場を見渡せば分かるだろう。石河、川路、水野、現役の勘定奉行が3人もおるではないか」
水野・川路「・・・」
顔を見合わせる一同。
忠優「阿部殿には松平近直がおる。我がいなくなったら阿部殿に指示を仰げ」
水野・川路「・・・」
石河、穏やかな表情で
石河「さすがに3人は少し多いですな」
忠優に向き直り
石河「この石河政平、忠優様と共に勘定奉行を退任したく」
一同『え?』となる。
石河「勘定奉行となり12年、忠優様と共に公儀の先頭に立ち7年、私の能力以上にお引き立てを頂きました。この政平には過ぎた待遇にござりました」
忠優「・・・」
石河「川路、水野と私よりはるかに能力の高い後継もできましたし、心置きなく引かせて頂くことができましょう」
忠優「そうか、長きの間ご苦労であったの」
一同「・・・」
しんみりする場。
隣の井戸、焦って
井戸「そ、それなら、私だって長崎奉行・江戸北町奉行・メリケン交渉全権と御前に取り立てて頂いて10年。私も御前と共に辞任を・・・」
忠優「貴様はだめだ」
井戸「えー」
ぷっと吹き出す水野。
水野をにらむ井戸。
忠優「辞める理由がない」
井戸「そんな・・・」
忠優「しっかり務めを果たせ」
井戸「・・・はい」
再び、ぷっと吹き出す水野。
井戸「何がおかしい、このハゲ」
水野「あー、ハゲ言うな、ハゲと」
井戸「貴様ー、このわしに向かってタメ口をききおったな」
水野「人を愚弄する発言をなさるからです」
井戸「何が愚弄だ、素直に言っただけじゃ、このハゲ」
水野「おのれー」
石河「これこれ」
笑いのこぼれる場。
忠優の優しげに笑っている。

 

 

 

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