開国の父 老中・松平忠固

【917】第8話 B1 『上海』≫

○江戸の町(夜)
火の用心の見回りが歩いている。

 

○水野邸・外観(夜)

 

○同・応接間(夜)
行燈の日がゆらゆらと影を揺らす。
水野と井上が座っている。
使い「お客様が参られております」
水野「来たか」
岩瀬・堀が入ってくる。
緊張の面持ちの一同。

 

○同・庭(夜)
池に映る三日月。
『安政2年(西暦1855年)8月』

 

○同・応接間(夜)
水野と井上、堀と岩瀬が対座している。
岩瀬「伊賀守様更迭・・・、これはいったいどういうことなのでしょう。なにか聞いていらっしゃますでしょうか。水野殿」
掘「現在阿部様は臥せっておられて俺達さえそのような話は聞いてない。そもそも伊勢守様が伊賀守様をご更迭されるとは思えない。またどこぞの陰謀か・・・」
真剣な表情の堀と岩瀬。
2人の表情を確認しながら、慎重に話し出す水野。

水野「陰謀とかそういうものではござらん。今回は伊賀様がご自分でなさったこと。阿部様が忠優様を更迭した、ということでこの混乱をおさめるためでござる」
岩瀬・堀「なんと」
水野「阿部様が臥せっていた故、今回の件は打ち合わせてなかったようでござるが、おそらく阿部殿には直々にお話しなさっているでしょう」
堀「そ、そうでござったか」
岩瀬「にしても・・・、たとえそれで今回の窮地を乗り越えたとしても、伊賀様を失うことは幕閣にとって大きな痛手。今後の阿部様の政にも大きく影響致しましょう」
堀「そもそも、伊賀様は老中をやめられて何をするのだ?上田に引き込まれてのんびりされるとでも言うのか?」
商いや為替のことなど頭に浮かび、考え込む水野。
水野「・・・」
何を言うのか様子を伺う井上。
井上「・・・」

 

○忠優邸(夜)
忠優と阿部が話している。
阿部「老中を辞められることは分かり申した。だが、いずれにしても忠優殿が戻ってきてくれねば始まらぬ・・・。ほとぼりが冷めるまで2年、いや3年か・・・」
忠優「阿部殿・・・。その間に我は富国策の準備を取りかかる。ついては、阿部殿にお許し頂きたい儀がござる」
阿部「なんなりとお申し付け下さりませ。今回の義挙の償いにはなりようがないが」
忠優「それでは遠慮なく。実は・・・」

 

○庭
コーンと猪脅しが鳴く。

 

○同・応接間
忠優、ためらいがちに
忠優「異国に行く許可を頂きたい」
阿部「なんと!」
忠優「メリケンに続き、エゲレス、ロシアとも和親条約を締結しました。やはり現実にこの目で異国を見なければ判断を誤りましょう。岩瀬などもしきりと留学を申し出ております。まずは我が留学の是非も判断するためにも渡航せねばと思うのです。幸いこれから無役。現状ならばそれほど絶対不可能という状況でもなく・・・」
阿部「・・・」
忠優「・・・」
しばらくの沈黙。
阿部「あまりに危険でござる。死ぬかもしれませぬぞ」
忠優「これで死ぬるは本望にて」
阿部「ですが・・・」
刀をじゃきっと出す忠優。
阿部「!」
しばらくの沈黙。
阿部、あきらめて
阿部「忠優殿がうらやましい。どこまでも自分の気持ちに従おうとするその姿勢に」
にやっと笑う。
微笑む忠優。
阿部「して、異国とはどこに」
忠優「メリケン西海岸のサンフランシスコ・・・」
阿部「!」
忠優「と言いたいところですが、クルシウスに頼む以上それは無理、できたらパタヴィアがいいが、現実的には・・・」
遠くを見る忠優。

 

○海上
遠くを見る忠優。
青い空、青い海。
大海原を走る蒸気船。
穏やかな波間を煙を吐き進む外輪船。
声「いかがですかな、乗り心地は」

 

○蒸気船・甲板
忠優、振り返るとクルシウスと水野。
忠優「これはカピタン殿。まったく大したものですな。こんな無風の日にも力強く進むのですからな」
水野「この度は無理な願いをきいて下さり、本当に恐れ入る、クルシウス殿」
クルシウス「なんのなんの。あなた方を船に乗せるくらいたやすいこと、それにそのおかげで我が国も出島の隔離地から解放されるわけですからな。おつりが来ますわい」
忠優「永井を玄蕃頭にした後になりますな、貴国との和親条約締結は。師走になると思うが」
水野「ですが、そのかわりと言ってはなんですが、今回のことは他言無用にござりまするぞ。記録にも残さぬようお願いする。シーボルトの件でもうこりごりですからな」
クルシウス「了解しています。ほら、ごらんなさい。いよいよ大陸が見えてきましたぞ」

 

○河川上
黒船が河川を上がっていく。
川の両岸はまだ緑豊かなのどかな風景。
青い空に浮かぶマストの切っ先が見えてくる。。
その切っ先は5本、10本と増えていき、やがて無数に増え、マストの林に見える。

 

○甲板
おびただしい数の外国船が停泊し、航行している蒸気船も見える。
驚く忠優、水野、付き添いの剛介。
忠優「こ、これは・・・」
水野「な、なんと・・・」
にやりとするクルシウス。
クルシウス「ようこそ、上海へ」

 

 

 

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