開国の父 老中・松平忠固

【839】第3話 B3 『鎖国』≫

○江戸城・御用部屋
上座に座る斉昭。
N「そして、懸案だった斉昭の海防参与就任は、家慶の遺言ということで嘉永6年(西暦1853年)7月3日に決定・5日に就任し、すでに幕閣に参加していた」
牧野と生き生きと話している阿部。
無力感の漂う忠優。
老中陣が右側に整列し、対して左側には溜間勢が鎮座する。
中央に座る直弼、脇に高松候や忍候ら。
阿部と忠優の様子を注視する。
牧野「台場普請、大船建造、人材の登用について、以上のように進める所存でござるが、溜間の面々におかれましてもぜひご承認いただきたく」
溜間勢「・・・」
勝手に決めているので面白くない。
直弼「謀反につながる台場普請に大船建造、倫理を破壊する下剋上の登用、そのように次々と祖法を破る資格が貴殿らにあるのか」
斉昭「なんだと」
血相を変える斉昭。
直弼「それに」
斉昭を遮るように続ける直弼。
直弼「国書はどうなるのでござる。まさか御公儀開闢以来最も重要なる祖法の中の祖法、鎖国祖法をもお破りになるおつもりではあるまいな」
斉昭「う?」
牧野「?」
乗全「?」
一同「・・・」
顔を見合わせる老中陣。

言っていることが分からないという微妙な空気。
阿部「・・・」
忠優「・・・」
牧野「な、なに祖法?・・・、とおっしゃりましたかな」
直弼、相手をバカにした言い方で
直弼「鎖国じゃ。まさか鎖国の意味が分からないなどと言うのではあるまいな。無知もいいところですぞ」
忍候「掃部殿の教養は並び立つ者なき位にて、老中達が知らぬのも無理はありますまい」
ムカッと来る牧野、乗全。
普段冷静な阿部も露骨に嫌な顔を見せる。
忠優は興味津々な顔でニヤリとする。
直弼「多忙な老中の御仁たちは読書をする時間もござらぬかな。オランダ人達は、自国人の出国・外国人の入国を禁じ、世界諸国との交通を禁止している我が国の状況を差して鎖の国と書いて、鎖国と称しておる」
一同、あっけにとられて聞いている。
一同「・・・」
斉昭「南蛮人の書など読む必要はないわ」
直弼「敵の手の内を知るは兵法の初歩の初歩。それくらいなさらないでこの国の海防を任せられようか」
斉昭「ぐっ」
忠優「志筑忠雄『鎖国論』ですな」
忍候「え?」
ばっと一同が忠優を見る。
忠優「忍候は志筑忠雄をお読みなのですな」
忍候「え?、わしは・・・」
直弼「伊賀殿は『鎖国論』をお読みか」
忠優「志筑の書だったら、我は『暦象新書』が好きじゃ。中でもヨハネス・ケプラーの天文学、読まれましたかな」
直弼「え?、あ、ああ」
一同「・・・」
しらけ気味の場。
斉昭「いったい何を言っておる」
いつものように阿部が元に戻す。
阿部「話がだいぶそれてしまいましたので元に戻しますが、台場普請、大船建造については早急に実施する方向で、長崎に来航しているオロシア国についてはぶらかしを続ける。でよろしいですかな」
溜間勢、しぶしぶと承諾する。
斉昭「それと、メリケン国の国書の扱いについてだが、幕閣・親藩だけでなく外様まで、さらに大名はおろか一般庶民にも公開して意見を求めようと考えておる。この衆評は海防参与であるわしの発案である」
阿部「!」
忠優「!!」
阿部、『なぜそれを今言う』という表情で焦る。
忠優はそれを発表したことで驚くと同時に、鋭く斉昭を睨む。
溜間勢も驚く。
高松候「衆評・・・」
忠国「外様だけでなく一般庶民にも・・・」
直弼「ば、ばかな。滅茶苦茶だ」
騒ぎ出す溜間勢。
斉昭「もう決定したことじゃ」
直弼「そんなことはありえん。このような極秘事項を外様はおろか庶民にまで公開するだと!?」
高松候「あきれて物が言えん。二の句が告げないとはまさにこのことじゃ」
忠優「・・・」
動揺する溜間勢。
直弼、忠優が浮かない顔をしているのに気付く。
直弼「そう、伊賀殿。伊賀殿もそれでよいのか。伊賀殿も御老公の意見に賛同されておるのか」
阿部、やばいという顔をし取り成そうとする。
阿部「勿論です」
直弼「伊賀殿!」
一同の目が忠優に集中する。
忠優「台場普請、大船建造、オロシア国の対応は話の通り。だが衆評についてはまだ閣議にて決定したことではないはず」
阿部「忠優殿!」
斉昭「伊賀、何を申しておる。伊勢も賛成しておるのだぞ」
忠優「決定してないのは事実。それについては、我にも譲れないところがある」
斉昭「なにー」
忠優をにらみつける斉昭。
忠優は斉昭とは視線を合わせない。
阿部「・・・」
困惑する阿部。
直弼「・・・」
その争う様子を見てニヤリとする直弼。

 

 

 

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