開国の父 老中・松平忠固

【952】第10話 B4 『勝鬨』≫

○勘定方
勘定方数十人が座っている。
上座で演説する忠固。
忠固「一月十二日の第14回交渉を持って、交渉は妥結した。関税は輸入税が一般品目にて二割、酒類三割五分、食糧・建材・漁具が五分となった」
一同、歓声。
『おお、やったな』『さすが井上だ』『いや岩瀬殿はさすが昌平こう史上最高の頭脳と言われるだけはある』などの声。
忠固「喜ぶのはまだ早い。開港地であるが、長崎・函館と残り一港は神奈川となった。アメリカ側が執拗に求めた大坂開港は断固拒否し、認められた」
『おお』の声。
忠固「これによって海外との交易はすべて関東で管理できる。それはつまり商いの中心が関西から関東に移ることを意味する。公儀が完全に復活、いや、家康公当時より強化された江戸幕府が、ここに誕生する!」
一同、静まり返って、感動している。
官吏A「エイ、エイ、オォ」
と勝鬨を上げる。
勘定方全員による『エイエイオー』と繰り返される勝鬨。
目的達成した充実感で満ちている一同。
誇らしげな忠固。

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【951】第10話 B3 『そろばん』≫

○蕃書調所・内
岩瀬、井上がハリス、ヒュースケンと交渉している。
岩瀬「次に、最大の焦点である関税であるが、輸入税・輸出税ともに一割二分五厘でいかがか」
ハリス「輸出には通常関税は掛けませぬぞ。輸出に関税をかけるということは、日本国民の産業に重荷を課し、商人にとっても迷惑で、密貿易の取り締まりに多大な経費を要し、国家の収入に益することがありませぬ」
岩瀬、迷いなく
岩瀬「輸出税を掛けないとするならばそれに見合う財源を確保する必要がある。輸入税を上澄みせねばなるまい。2割でどうか」
ヒュースケンと話すハリス。
ハリス「20%・・・」
岩瀬「一般品目は2割とする、ただし、ハリス殿が求めるように食料・建材・漁具など一部品目については五分程度にしてよい」
ヒュースケンがハリスに
ヒュースケン「税率20%は欧米諸国と同レベルの関税率になりますが」
考えているハリス。
そろばんはないが、そろばんをはじいている動作をしている井上。
岩瀬に指示を出す。
岩瀬「食品を五分にする一方、酒類は高くしたい。三割五分でいかがか」
ハリス、ヒュースケンと相談。
ハリス「ところで、井上殿は何をやっているのか」
井上の手真似をしながら
井上「そろばんでござる」
後ろの筆記人からそろばんを出す。
ハリス「これで計算を・・・。この道具がなくてできるのか」
井上「はい」
ヒュースケンが口笛を吹く。
ヒュースケン「マジシャンか、お主らは」
難しい交渉の中に笑いが漏れる。

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【950】第10話 B2 『京』≫

○京都・全景
京都の風景。
本願寺の五重塔が見える。

 

○近衛家・外観
『近衛邸』

 

○同・内
西郷が近衛忠煕、僧・月照、女官・村岡と会っている。
近衛が書状を読んでいる。
近衛「次の将軍さんを一橋慶喜さんにするよう勅命を出す・・・」
西郷「はい。堀田老中首座自ら京に参られるとのことにございまする」
月照「だが、堀田さんが京に参られるのは異国との条約締結の勅許を得ること、と聞いておりますが」
西郷「はい。それを隠れ蓑にすることで将軍家継嗣の内勅降下は目立たないものとなりまする。却って好都合かと」
村岡「篤姫さんはいかがお過ごしでっしゃろ。大奥での運動はうまくいっておられるでしょうか」
西郷、顔が曇り
西郷「大奥の状況は良くないようです。篤姫様はお元気でいらっしゃいますが、運動以前に御老公の評判があまりに悪く、その息子たる慶喜様擁立などと口にも出せぬご様子」
村岡「それはおいたわしや・・・」
近衛「よし、分かった。九条関白様にはワシの方で早速会いに行こう」

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【949】第10話 B1 『勅許』≫

○江戸城・外観
声「勅許?」

 

○同・財務部屋
書類がうずたかく生まれた部屋。
書類にうずもれる中、作業をしている忠固。
水野と岩瀬が報告に来ている。
忠固「なんだ、それは」
岩瀬「勅許とは帝の許可を得ることにございまして・・・」
ぎろっとみる忠固。
岩瀬「すいません。そういうことではないですね。堀田様に条約交渉の報告をしたところ、条約批准するにあたって帝の許可をもらう、そしてそれは堀田様が自ら京に行かれる、とのお話でした」
忠固、失望の顔でため息。
忠固「・・・」
水野、その思いを思い分って
水野「御前があれだけ時間の無駄だとおっしゃったのに、とうとう決めてしまわれたか。自ら行くので文句なかろう、という意思表示でしょうか」
忠固「交渉もこれから正念場というのに、早くも後の心配をしているというのか、まったく。で、あの人はどのようにせよ、と言うのか」
岩瀬「京での手続き・往復を入れて2か月はかかりましょう。その間、調印は待ってもらいます。京へは私も随伴し御説明せよ、とのことにございます」
忠固「にかげ・・・」
忠固、阿部の刀をぎゅっと握りしめる。

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【948】第10話 A4 『篤姫』≫

○江戸城・外観
江戸城の奥深くまで進み大奥が現れる。

 

○同・大奥・風呂場
湯船につかっている女性。
その傍らに膝まづいている幾島(43)。
幾島「篤姫様」
湯船から出て椅子に座る篤姫。
幾島「御父上様から密書が届いております」
篤姫「薩摩の御父上から…。でなんと?」
幾島「ご御継嗣の件、急ぐようにと…」
篤姫「や、やはり来たか…。やらねばならぬな、なんとしても」
篤姫、決意の表情。

 

○同・同・応接間
煙管をふかしている年寄・瀧山(39)。
面会している直弼。
瀧山「は?ご存じなかったと?」
直弼「篤姫様が一橋擁立の動きを・・・」
滝山「あきれますな。では一橋派の京工作は」
直弼「む・・・、どんな工作です?」
滝山「堀田首座が通商条約締結の勅許をもらう際に、合わせて御継嗣の勅命を出させようと」
直弼、思わず腰を上げる。
直弼「なんだと!み、帝が一橋を御継嗣に推す勅命とな。なんたる事を。確かに、鷹司家に近い水戸と近衛家に近い薩摩がしきりに動き回っておるようだが」
瀧山「大奥の地獄耳、この瀧山に知らぬことはございません。如何されるおつもりか」
直弼「許さん。そもそも帝に政の報告すること自体、水戸が勝手に始めたこと。ぐぬぬ」
妖艶に直弼に話す滝山。
滝山「ですが掃部守様、これは逆に好都合ではございませぬか」
直弼「?」
滝山「このようにすればよいのです」
滝山が直弼の耳元でささやく。
滝山「ふふふ。京都守護役の井伊家ならそんなこと造作もないこと」
直弼「な、なるほど。さすが滝山殿。そうとなったら一刻も早く長野に指示を。御免」
そそくさと出ていく直弼。
不敵な笑みを見せる滝山。

 

 

 

【947】第10話 A3 『徳川慶喜』≫

○増上寺・境内
やぶさめが行われている。
堀田と慶永が隣の席で話し合っている。
慶永「ハリスめはまだ蕃書調所におるのですかな」
堀田「はい」
慶永「何故です。もう上様との謁見は終わった。もはや用はなかろう。とっとと下田に帰らせるべきだ。いや、母国に帰らせるべきであろう」
堀田「・・・」
交渉が始まったことは言わない。
堀田「慶永殿、ほら、始まりますぞ」
慶永「おお、次は慶喜殿か」
馬に颯爽をまたがっている一橋慶喜(20)
警戒に馬を走らせ、見事に的を射抜く。
慶永「お見事」
堀田「おお」
こともなげに平然としている慶喜の顔。
慶永「いやぁ、本当に素晴らしい。やはり次の上様は慶喜殿しかあるまい」
堀田、またかの顔。
他の者が続いてやぶさめを行っている。
次々と射抜かれる的。
慶喜、堀田の前に慶喜が現れる。
慶永「慶喜殿、お疲れ様でござった」
堀田「見事でございましたな」
無表情の慶喜。
慶喜「いえ、それほどでも。あれしき当然のことなれば」
慶永「ほっほっほ。それは頼もしい。ところで慶喜殿、堀田殿が貴殿に非常に興味を持たれていての。御父君とそなたとの考え方が違うと聞いて、ぜひ話を伺いたいそうだ」
堀田「慶喜殿は、水戸学である尊王攘夷の思想ではないと伺ったが」
無表情の慶喜。
慶喜「若干二十歳の私の考えなど聞いても何の意味もないと思われますが」

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【946】第10話 A2 『交渉開始』≫

○蕃書調所・外観
安政4年(西暦1857年)12月4日』

 

○同・内
井上・岩瀬とハリス・ヒュースケンが会談している。
お互いに、書状を確認している。
ハリス「結構。井上殿と岩瀬殿が条約交渉の全権大使ということ、確認した。これでようやく正式な交渉に入れるな」
岩瀬「では、互いに全権の委任状の照合を終えたので、これから条約交渉に入ることとします。ついては、通商条約の基本としてはオランダ・ロシアとの和親追加条約の線で取り決めたいと思っております。すなわち、開港場は長崎・下田・函館とし、その地に交易場を設け、内外人とも品物を持ち寄り、互いに入札して取引する方法を取る、ということでござる」
ハリス「・・・」
ハリス、パイプに火をつけ、大きく吹かす。
ハリス、ヒュースケンに顔で指示。
その指示に基づいてヒュースケンがオランダ語で書かれた書類を出す。
ハリス「こちらで条約の草案を作ってきた。和訳し、よく検討しておいてもらいたい」
渡された草案をパラパラとめくる岩瀬。
ハリス「日米和親条約第9条による最恵国条項により、オランダ・ロシアに与えられている権利は既にアメリカも有している。岩瀬の話したことは既に協議する必要はない」
岩瀬・井上「・・・」

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【945】第10話 A1 『ハーグ』≫

○オランダ・ハーグ
ハーグの港。
『オランダ・ハーグ』
停泊する船に『ペニンシュラ&オリエンタル社』の文字。
運河や街並みの中にオランダ国旗が見える。
『西暦1854年(安政元年)11月20日』
到着した定期船から乗客たちと共に下船するペリー(60)。
男と従者2名がペリーを出迎える。
男はオーガスト・ベルモント(41)。
ベルモント「遠路お疲れ様でした、御父上」
手を差し出すベルモント。
ペリー「わざわざ出迎えてくれて痛み入りますな、オーガスト」
握手し肩を抱き合う両者。
ベルモント「おめでとうございます、日本との和親条約締結。ビットル提督以下誰もがなしえなかったこと、歴史的快挙ですな」
ペリー「ありがとう。少々疲れたよ。これを以て軍を引退する届を出したところだ。ところで、キャロラインは元気か」
ベルモント「ふふ、貴方の娘は元気どころか、毎日私は怒鳴られていますよ。なにかスポーツでもやらせようかと思ってまして」
ペリー「結構結構。早いものだ、結婚してもう5年か」
再会を喜んだあと、馬車に乗り込む二人。
街中を走り去っていく馬車。

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【944】第9話 D4 『堀田の妙案』≫

○堀田邸・外観

 

○同・庭園
美しい庭園。
池に満月が映っている。
ハリスとヒュースケン、堀田と忠固、井上や岩瀬が宴をかこっている。
ハリス「蒸気機関の出現、特にそれを備えた蒸気船の運航によって、各国の距離は縮まり、その往復は頻繁となり、貿易が以前とは比類にならないほど盛んとなったのです。いまや以前の風を頼りの帆船時代とは一変した世界になっています。日本は好むと好まざるとに係らず、鎖国を続けることは困難です。開国して貿易を始めれば関税収入が得られます。そうしたフリー貿易、資源開発・輸出入を活発に行えば、日本は莫大な利益を上げることになることは疑いのないことなのです」
聞き入っている井上と岩瀬。
うんうんうなずいている堀田。
外の満月を見ながら思いにふけっている忠固。
みなの表情には確信に満ちている。
ハリス「私の使命は、あらゆる点で友好的なものであること。私は一切の威嚇を用いないこと。プレジデントはただ、日本の迫っている危難を知らせて、それらの危難を回避することができるようにするとともに、日本を繁栄、強力、幸福の国にするところの方法を指示するものである」
一同「・・・」
ハリス「英仏艦隊はチャイナとの戦争が終われば、日本に来航するだろう。彼らは首都北京に迫り、奴隷のような条約を結ばせようとしています。日本来航時の使節には香港総督ボウリングが内定しています。ボウリングや領事官パークスなどにかかれば、日本人など未開人であり売買対象の奴隷くらいにしか思っていません。彼らは主要な貿易の要衝、喜望峰ケープタウン、インド・カルカッタ、シンガポール、香港、上海と次々と支配下に置いています。次の支配地はどこだか知っておりますか?」
顔色が変わる一同。
堀田「それは日本ですな」
ぎろっと一同をにらむハリス。
ハリス「正直に申し上げて、、、日本などどうでもよい」

(さらに…)

【943】第9話 D3 『変死』≫

○謁見の間・床下
床下が空けられ、口上役が倒れている。
水野の指揮で忍びが二人、部屋をくまなく調べている。
忍び、死んだ声役の爪の先から何か見つける。
忍び「お奉行」
それを見て険しい顔の水野。

 

○大目付の部屋
水野が井戸に報告している。
井戸「なに?、突発死でなく他殺だと申すか」
水野「はい。わずかながら争った跡があり・・・」
井戸「で、ではいったい誰が何の目的で、と申すか」
水野「そこまではまだ・・・」
井戸、考え込む。
水野「滅多なことは申せませぬが・・・」
井戸「申してみよ」

(さらに…)

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