開国の父 老中・松平忠固

【942】第9話 D2 『ハリス、謁見』≫

○江戸城・門外
ハリスの登城の行列が門を入っていく。
N「安政4年(西暦1857年)10月21日、ハリスは将軍家定と謁見するために江戸城に登城した」
平伏して迎える侍の中には憎しみの色を表す者も多い。
そして何か合図をする者。
合図をもとに忍びが動く。

 

○床下
床の下にいた口上役、背後から口をふさがれ毒を盛られて倒れる。

 

○謁見の間
広々とした間。
中央にレッドカーペットが敷かれている。
上座の一段高くなっている最奥に家定が椅子に座っている。
歩み寄るハリス、家定を前に直立する。
国書を堀田に渡し、それを受け取る堀田。
ハリスが英語で口上を述べる。
それに続き、ヒュースケンがオランダ語を、通辞が日本語で翻訳する。
米国側の口上が終わり、しばらく間。
家定、足をどんと踏み鳴らす。
しかし、何の反応もない。
家定「?」
忠固「?」
床下では、口上役が倒れている。
おかしいという表情の家定と忠固。
もう一度どんと踏み鳴らす。
何の反応もない。
家定「・・・」

(さらに…)

【941】第9話 D1 『床下の細工』≫

○江戸・愛宕山
ハリスら上府の一行が東京港区芝にある愛宕山を上っている。
『安政4年(西暦1857年)10月14日』
頂上に着き籠から出てくるハリスら。
『愛宕山』
ハリス「ようやく着いたか」
ヒュースケン「ここですな、江戸の街を一望できる所というのは」
歩きだし展望場所から眼下を見る。
ハリスら「おお」
ハリスら驚愕する。
見渡す限り広がる江戸の街。
ハリス「こ、これが・・・」
ヒュースケン「は、端が見えない・・・。これならたしかに百万人が住んでいるかもしれない」
ハリス「これが江戸か」
にやりとするハリス。

(さらに…)

【940】第9話 C4 『幼き心の傷』≫

○江戸城・大奥
荒れ果てた部屋。
障子が破かれ、ふすまには穴が開き、おられているものもある。
置物などの装飾品も軒並み壊されている。
それを横目に見ながら、女中に案内される忠固。
忠固「・・・」
さすがの忠固も何事かという表情。

 

○同・応接間
ここの間もボロボロである。
そこに待ち受けている女性が背を向けて座っている。
引きちぎられた掛け軸を見て悲しんでいる。
忠固、下座に着き平伏する。
忠固「お久しぶりにございます。御台様」
忠固の方に向き直る篤姫。
篤姫「伊賀殿・・・、お呼び立てしてすまぬ・・・」
忠固「これはいったい・・・」
篤姫、悲しげな顔で
篤姫「わらわもどうしたらいいのか考えたのじゃ。誰が、誰だったら救ってくれるのかと」
忠固「・・・」
篤姫「阿部殿が亡くなり、それに伴い御側衆の本郷もいなくなった。堀田殿では埒が明かず・・・。そんな時に老中に戻ってこられた貴方様。貴方様なら上様のお力になって頂けるものと」
忠固「では、やはりこれは上様が・・・」
頷く篤姫。

(さらに…)

【939】第9話 C3 『直弼、京都工作』≫

○井伊邸(夜)
直弼が長野、脇坂と密談している。
直弼「なにぃ、袖の下を返してきただと」
脇坂「はい」
直弼「三千両全てか」
脇坂、困惑した顔で頷く。
直弼「ぐぬぬ。なんという無礼な。くそっ。あやつは以前に増してやりにくいわ」
脇坂「加えて、我々の後から越前慶永様が接触し、金子を送ったとの情報が。それも奴らは我らよりも多い五千両を送ったとのこと」
直弼「むぅ。で、受け取ったのか」
脇坂「そのようです」
直弼、扇子をばきっと折る。
直弼「なんたる厚顔、無節操。あれほど対立しておった水戸側から金だけは受け取ったというのか」

(さらに…)

【938】第9話 C2 『斉彬、京都工作』≫

○鹿児島
噴煙を上げる桜島。

 

○集成館
ガラス製品が製造されている。
ガラス工芸品の紅ビードロ。

 

○反射炉
巨大な2基の反射炉。
鉄が作り出されている。

 

○浜
洋式大砲の演習が行われている。
椅子に座り様子を見ている斉彬。
書状を読んでいる。
隣には西郷。
斉彬「老中を再任された伊賀守殿が慶永殿からの袖の下を断ったらしい」
西郷「本当でごわすか。橋本左内からの連絡では五千両にものぼる黄金だったとか」
斉彬「うむ。掃部守三千両を上回る金子だと慶永殿は自信満々であったがな」
西郷「では、掃部守様の方は受け取ったと」
斉彬「それは分からんが、きっとそうであろうと言っておる」
西郷「・・・。それはどうでしょうか」

(さらに…)

【937】第9話 C1 『一喝』≫

○上田藩邸・外観

 

○同・応接間
忠固が慶永を応接している。
忠固の脇には家老の藤井、剛介。
慶永の脇には中根と左内。
一同緊張した空気で向かい合っている。
忠固がおもむろに、頭を下げる。
忠固「頂いたご厚意を返してしまい、無礼をお許し下され」
その姿に驚く剛介、藤井、慶永、中根。
左内は冷たく観察している。
慶永、気を良くする。
中根、左内、『いけるか』という顔。
慶永「そこじゃ、単刀直入にそこのところを聞きたくて来たのじゃ。伊賀殿は実際、一橋慶喜様を支持して頂けるのかな」
忠固「・・・」

(さらに…)

【936】第9話 B4 『象山・松陰への使者』≫

○松代
深い山の中。
『安政4年(西暦1857年)7月』

 

○松代藩・佐久間邸
邸内に張り巡らされている鉄線。
ジリジリジリとベルが鳴る。
電信機の受話器を取る音。
声「うむ、通せ」

 

○同・応接間
象山が松代藩士を応接している。
藩士「困るではないですか。象山殿」
象山「なにがじゃ?」
藩士「その後ろの夷荻の道具じゃ」
象山の作った電話。
象山「これが何か?」
藩士「何かもこにかもないでござろう。そなたは謹慎中の身であるぞ。控えなされ」
象山「わしは謹慎しておるぞ。じゃから部屋中でやっておるではないか」
藩士「部屋の中でも同じでござる。要は反省しておるか否か。そなたは全く反省の色がないではないか」
象山「では言わせてもらうが、江戸では直にこの電信網が張り巡らされるぞ。江戸のお下がりを待っておったら何年先になることか。この象山が研究しておれば同じ時期に、いや、江戸に先駆けてこの松代で試験運用を任されることになるかもしれませぬぞ」
藩士「え?」

(さらに…)

【935】第9話 B3 『咸臨丸』≫

○品川・東禅寺参道
『安政4年(西暦1857年)8月4日』
参道に忠優と井戸、永井が歩いている。
永井「あの、あちらの方はどうなってますでしょうか」
井戸「なんだ、ハリスの登城の件か」
永井「あ、いえ、それもありますけど、あの、公方様の継承問題にございます」
井戸「・・・」
忠固は、ウキウキして耳に入っていない。
永井「ご老中は水戸の慶喜様と紀州の慶福様とどちらを御支持あそばれているのですか」
ムッとなる井戸。
井戸「そちがそのような心配をする必要はない。エゲレスが北京を攻め落とし我が国に迫ってきているという時に、そして一刻も早くアメリカと通商条約を結ばねばならぬ時に、御家騒動など笑止。そちは海軍伝習所にて寸暇を惜しんで海軍を整備する使命がある。そんなことを気に掛ける余裕などないはずだ」
永井「も、申し訳ございませぬ」
忠固「おい、見えてきたぞ」

(さらに…)

【934】第9話 B2 『上府決定』≫

○玉泉寺・内
井上と岩瀬、通訳がハリス、ヒュースケン、ロシアのポシェット提督が会談している。
机に並べられた写真。
ニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドン、香港などの写真。
岩瀬、目を輝かせて見ている。
岩瀬「これが西洋の街・・・」
井上「・・・」
さすがに驚きの色を隠せない井上。
ハリス、大きな態度でパイプをふかしながら、自慢げ。
ポシェットが写真を出す。
ポシェット「こちらがわが帝都サンクトペテルブルグです。オーケストラに興味がおありとか。わがサンクトペテルブルグオーケストラのチャイコフスキーの演奏を聞かせたいですな」
岩瀬、目を輝かせて
岩瀬「いいですな。ニューヨーク、ロンドン、サンクトペテルブルグ・・・。行きます。なんとしても行ってみせます」
ポシェット「ははは、それはどうですかな。ハリス殿の江戸上府さえ叶わぬのに」
岩瀬「・・・」
ハリス「・・・」
顔を見合わせる岩瀬、井上、ハリス、ヒュースケン。

(さらに…)

【933】第9話 B1 『両陣営の賄賂』≫

○江戸の町
活気のある日本橋界隈。

 

○越前藩邸・外観
声「松平忠固様?」

 

○同・中根の部屋
左内が家老格の中根靱負(50)に進言している。
中根「そうだ。今度老中次席に入閣された」
左内「・・・。中根様、失礼ながら存じ上げませんがどのようなお方なのですか」
中根「阿部伊勢守殿が老中首座であった頃の老中で当時席次は四番、不祥事により安政二年に罷免されておる。上田五万石藩主にして酒井雅楽頭家出身じゃ」
左内「罷免・・・、そんな方を次席に登用したのですか。それに酒井姫路といえば・・・、では溜間勢でありますな」
中根「まぁ、そうなるな。譜代名門出を笠に着て、傲慢不遜な性格じゃ」
左内「共に新たに入閣した脇坂安宅様も井伊彦根様の手の者。堀田首座様も溜間ご出身。ということは、阿部様亡き後の幕閣は溜間勢で占められた、と考えた方がよろしいですな」
中根「うむ、まぁ、そうなるな」

(さらに…)

開国の父 老中・松平忠固

PAGE TOP

© 開国の父 老中・松平忠固史 2024 All Rights Reserved.