開国の父 老中・松平忠固

8月2020

【909】第7話 D1 『堀田備中守』≫

○忠優邸
忠優を上座に、下座最前列に井戸と石河。
二列目に川路と水野。
三列目に井上が座っている。
井戸「そういうことにございましたか。にしても、阿部様のご負担が倍増するのは必定、先日も体調を崩されたばかり。心配です」
忠優「うむ。それは当然考えておる。実は阿部殿も老中首座を退き、他の者に矢面に立ってもらう段取りじゃ」
一同「え?」
石河「阿部様が首座を降りられるのですか。それはさらに心配が増すこと。阿部様以外首座が務まるとは思えませぬが」
水野「いったいどなたが次の首座におつきになられるのですか」
忠優「堀田備中守殿じゃ」
井戸「堀田様・・・」
石河「備中守・・・、佐倉候・・・」
水野「東随一の蘭癖大名の佐倉候か・・・、なるほど」
川路「堀田候ならば異国との交渉を前向きに進めることは間違いありませぬな」
井上、冷静な表情で
井上「恐れながら」
皆、振り返り井上を見る。
井上「堀田候では阿部様の代わりは務まりますまい。大老を輩出した堀田家で元老中とはいえ、現在詰めている溜間は一代限り、門閥の巣窟・溜間の抑えも疑問な上、申し訳ありませんが、御老公ら御親藩や薩摩様ら外様勢を抑えられるとは到底思えません」

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【908】第7話 C4 『更迭の秘密』≫

○阿部邸
阿部がふせっている。
目が覚める阿部。
側には謐子。
阿部「ふせってしまったか。わしは何日くらい休んでおった」
謐子「ようやく熱も下がったばかりにござります。まだしばらくはお休みになられた方が」
阿部「いや、寝ている場合ではないのだ。忠優殿が窮地なのでな。わしがいないと」
謐子「はぁ、ですが忠優殿は老中を辞められたとかとお聞きしましたが」
阿部、がばっと起き上がり
阿部「なんだと。それはまことか」
謐子「はい。なんでもご老中更迭とのお話で城中は騒ぎになっているとか」
阿部「更迭?、更迭と申したか。老中首座である私が指示していないのに誰が更迭できるというのか。いったい何が起きている!?こうしてはおられぬ・・・」
起き上がろうとする阿部。
しかし、ふらつく。
謐子が抱きかかえる。
謐子「まだ無理にござりまする」
それでも立ち上がる阿部。
阿部「いや・・・」
寝室を出る阿部。

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【907】第7話 C3 『老中更迭』≫

○江戸城・外観
『安政2年(西暦1855年)8月4日』
声「上意である」

 

○同・大広間
下座で座っている忠優と乗全。
通達者から忠優と乗全に対し上意が下逹されている。
通達者「松平伊賀守忠優、並びに松平和泉守乗全を老中より罷免する」
無表情で平伏する忠優と乗全。
横にいる牧野、久世、内藤の老中陣。
首座の席に阿部はいない。
牧野、隣の空席の阿部の席を眺め、さみしそうな顔。
牧野「・・・」

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【906】第7話 C2 『松平慶永』≫

○忠優邸・大広間
忠優が商人の佐七・茂平を迎えている。
忠優「できぬか」
佐七「い、異人と商い・・・、でございまするか」
茂兵「異人を見ただけで目が腐り、近くに寄れば不治の病にかかると言いますが・・・」
忠優「ばかもの、そんなものは迷信じゃ。我を見よ、異人と会っても死んでないではないか」
佐七「・・・、恐れながら、それは御殿様のご器量が豊かゆえのこと・・・」
茂兵「我ら一介の商人では、とてもそれを打ち払う力はございませぬ・・・」
家老「殿、この者ども、佐七や茂兵は江戸での販売に専念させ、異人との件はまた他に人選をしては」
忠優「・・・そうか、もうよい。下がってよいぞ」
佐七「では、異人と商売しなくてもよいと」
うんざりという顔で、下がれ下がれと手を振る。
忠優「・・・」
頭を抱える忠優。
そこへ小姓が歩み出る。
小姓「殿、御来客です」
忠優「客?」

 

○応接室
応接に待っている慶永。

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【905】第7話 C1 『世論囂々』≫

○江戸城・外観

 

○同・将軍謁見の間
家定が最上座に座り、両側に諸国大名が座る中、真ん中で老中が報告している。
中央に牧野、忠優、乗全、久世、内藤。
阿部はいない。
乗全「以上の通り、7月22日、長崎におきまして海軍伝習所を発足させました。オランダ国より蒸気外輪軍艦を寄贈させ、観光丸と命名し、これを練習船として、速やかに教練を開始する運びにございまする」
家定「そうか。よいことぞ」
老中陣を眺める。
忠優をちらりと見る。
忠優はいつも通りの表情。
家定「・・・」
牧野「これもひとえに前軍政参与水戸斉昭公のご尽力あったならばこそ。一言付け加えさせて頂きまする」
斉昭、フンという表情。
その斉昭の表情を見る家定。
そして、忠優を見る。
家定「・・・」

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【904】第7話 B4 『海軍伝習所』≫

○長崎
出島の様子。
西洋軍艦スームビング号が停泊している。
『長崎』
出島の脇に建てられた海軍伝習所。
黒い軍服を着た大勢の日本人たちが行列をなして伝習所の門をくぐっている。
N「安政2年(西暦1855年)7月22日、長崎にて海軍伝習所が発足した。オランダ人を教官として、寄贈された軍艦スームビング号、後の観光丸を練習船とした軍艦の操縦術をはじめ語学・造船・医学などの教育が行われた」
永井とクルシウスやオランダ人が並んで立っている。


N「初代総監に永井尚志、幕府伝習生は第一期生に37名、翌年の第二期生が12名、第三期生で26名が入校した。一方諸藩からは計128名が入校し、そのうち外様である薩摩・肥前・筑前・肥後の4藩で8割を占め、譜代は1割にも満たなかった」
オランダ人と話している赤松。
握手をして別れる。
声「へぇ、もうオランダ人と話ができるのかい」
赤松、振り返ると勝麟太郎(32)。

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【903】第7話 B3 『十八・松平』≫

○水戸藩邸
斉昭が引きこもっている。
使いが来ても、手であっちいけと追い払っている。

 

○江戸城・大広間
譜代大名が10数名集まっている。
それらに向かって忠優と乗全が上座に、脇に井戸と石河が座っている。
乗全「ここにお集まり頂いたのは、譜代大名の中でも特に幕府二百余年の歴史を支えてこられた十八松平の面々であります。いまメリケン・ロシア・エゲレスと直接交渉した担当から説明させたように、この未曽有の危機を乗り切るためには特にここにお集まりいただいた松平家のご協力が欠かせません。ぜひお力添えをお願いする次第でござる」
しーんとする場。
落ち着きなく左右を見回したり、顔を下に背けたり、やる気のない面々。
乗全「・・・」
忠優「・・・」

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【902】第7話 B2 『忠優 vs 西郷』≫

○同・船着き場(夕)
夕日が傾きかける。
阿部らの観覧は既に終了し、薩摩藩士と見られる者たちが後片付けをしている。
そこへやってくる水野ともう一人。
もう一人は笠をかぶっている。
水野「遅くなって申し訳ない。船を少し見せて下さらんか」
タラップ手前に薩摩藩士。
藩士A「あぁ?、もう既に観覧は終了したでごわす」
水野「所要で遅くなってしまったのだ」
藩士A「船も整備しなければならん、また今度にしてくれ」
水野「そこを何とか」
藩士A「しつこいね、おまんはどこの御人か」
水野「勘定奉行・水野筑後守じゃ」
藩士A「か、勘定奉行・・・、仕方なか。少しだけでごわんど」

 

○甲板(夕)
清掃や整備をしている船員たちの中、見学している水野ともう一人。
機関室に入ろうとする。
藩士A「そこはだめばい」
止められる二人。
水野「機関室は見せて頂けないのか」
藩士A「別途許可が必要だ」
水野「ここを拝見できないと来た意味がない」
藩士A「乗れただけでもありがたいと思ってもらわねば。いくら幕臣といえでも遅れてきたそなたらが悪い。そんなに見たければ幕府も自分で作ったらいいばい」
水野「な、なんだと。公儀を愚弄するか」
藩士A「愚弄も何も、異人に屈して開国させられるなど情けなか政府はその程度たい」
水野「貴様、ぬかしおったな」
押し問答になる二人。
声「どげんしたと」
藩士の方が腕を振りほどき
藩士A「これは西郷どん」
西郷という名を聞き顔をあげるもう一人の男、忠優であった。

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【901】第7話 B1 『雲行丸』≫

○函館
函館の遠景。
『函館』
函館湾に3隻のイギリス艦隊が入港している。
翻るイギリス国旗。
『安政2年(西暦1855年)3月12日』
物資を積み込んでいる様子。

 

○伊豆
伊豆・戸田村(現沼津)の風景。
『伊豆・戸田』
小型の西洋船が進水している。
誇らしく乗船しているプチャーチン。
プチャーチンの周りにはロシア人、手を振っている。
それを見送る大勢の日本人。
『元気でな』などと手を振っている。
『安政2年(西暦1855年)3月22日』

 

○長崎
長崎の遠景。
『長崎』
出島。
オランダ国旗。
スームビング号が来航している。
『安政2年(西暦1855年)6月9日』
商館からながめるクルシウス。
N「ぺリーが離日してまだ1年にも満たないこの時期、既にこれだけの西洋船が発着している」

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【900】第7話 A4 『講武所』≫

○講武所
浜離宮の景観。
『講武所(浜御殿)』
南側の敷地に大砲が4挺備えられている。
弓術をやる者、槍術・剣術・柔術をやる者達がいる。
それを見物している忠優、阿部ら老中陣と軍政参与の斉昭、お付の東湖。
脇に解説役の高島秋帆がいる。
軽装の兵隊たちが行進している。
指揮官が号令をかける。
指揮官「マルス(進め)」
行進する部隊。
指揮官「ハルト(止まれ)」
指揮官「ゲーフトアクト(気を付け)」
止まって気を付けをする部隊。
指揮官「リユスト(休め)」
老中らは感心しているが、気に食わない斉昭。
斉昭「なんじゃ、これは。何で夷狄の言葉なのじゃ」

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