開国の父 老中・松平忠固

7月2020

【851】第4話 A3 『上陸地交渉』≫

○横浜・金沢沖
無数の和船が浮かんでいる。
その和船の先には、立ち並ぶ8隻のアメリカ艦隊。
艦隊を取り囲むように陣取っている。

 

○ポーハタン号・甲板
幕府の役人が交渉をしている。
アメリカ側はアダムスが応対している。
役人「昨日も申した通り、どうか浦賀に戻って頂きたい。応接役も浦賀で待っておるのだ」
アダムス「我々は浦賀には断じて戻らぬ。交渉を行うというなら、再三言っているようにこの停泊地・ウェブスター島の対岸でお願いする」
役人「ウェブスター島?夏島のことか?。この横須賀・夏島沖では対岸と言っても何もないしどうにもならぬ。応接の準備ができるのは浦賀だけなのだ。どうあっても浦賀では納得して頂けぬのか」
アダムス「そうだ」
役人「・・・、分かり申した。では浦賀がだめだというなら、鎌倉を応接地とするのはいかがであろうか」
アダムス「鎌倉?」
隣のコンティが耳打ちをする。
コンティ「参謀長、鎌倉とはあの場所です。12日にマセドニアンが座礁した・・・」
アダムス「なんと」
コンティ「やはり連中は信用できませんな。これは間違いなく罠でしょう。かの地に我が艦隊をおびき寄せ座礁させるつもりでは」
アダムス「むむむ」
役人に向き直り
アダムス「バカバカしい。貴国は我が艦隊を座礁させようというのか。そもそもあれだけ浦賀にこだわっていたのにあっさり別の場所を指定するなど、それでは別に浦賀でなくともいい、ということに他ならぬではないか」

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【850】第4話 A2 『ペリーの日本考察』≫

○江戸湾
1月の寒々しい風景の中を進むペリー艦隊。

 

○ポーハタン・外観

 

○同・艦長室
艦長室でペリーが椅子に座り、パイプをふかしながら、読書をしている。
本の表紙には「JAPAN」シーボルト著と書いてある。
ペリーの声「日本。この古のまさにファンタジックな国がポルトガル人によって偶然に発見されたのは1543年の事である。その時すでに2203年の歴史を持ち、106代にわたるほとんど断絶のない家系の統治者の元で一大強国になっていたこの国は、ポルトガル人との接触時期にすでにすぐれた文明を有しており、これはキリスト教の平和的・禁欲的な教えの影響を受けずに到達し得る最高位の文明段階と言える」
外の景色を見るペリー。
日本の山々。
町の風景。
ペリーの声「この国がきわめて進んだ文明を持つ国であることは一目でわかる。幕府の役人は下田など田舎は貧しいと強調するが、家や道路が整然と並び、排水への配備がなされ、排水溝だけでなく下水道もあり、敷石が敷かれ、きわめて清潔である。人々の衛生や健康面への配慮は我が合衆国が誇りとする進歩をはるかに上回っていた。しかもにわかには信じられぬが、江戸の人口は百万人を超えるという。それは我が首都ワシントンの4万人、最大のニューヨーク70万人よりも繁栄しているというのだ」
本をバタンと閉じるペリー。
パイプの煙をけゆらせる。
ペリーの声「日本政府の施策については、前艦隊司令長官ビッドルが今より7年前に漂流アメリカ人捕鯨船員を救出しにこの国に来航した際、劣悪な環境で牢につながれているとして武力行使覚悟であったのに、実際は丁重に扱われていたこと、船員たちによれば軟禁と言ってもきわめて清潔な部屋で、自由に外出できないことを除けばほとんどできないことがなかったと証言していること、などからも推察できるように、日本は統治者の恣意ではなく法により治められているのは間違いない。という観点から、条約を締結すれば必ず遵守されるものと確信できる」
奉行所の様子。
評定の様子。
立ち上がり、艦長室を出る。
ペリーの声「この特異な民族が自らに張り巡らせている障壁を打ち砕き、我々の望む商業国の仲間入りをさせる第一歩、その友好・通商条約を結ばせる任務が最も若き国の民たる我々に残されている」

 

○ポーハタン・艦橋
艦橋に入るペリー。
ペリーを迎えるブキャナン艦長、参謀長アダムス、コンティ大尉。
アダムス「提督、ただいまルビコン岬を通過しました。あれに見えるがペリー島です」
頷くペリー。
ペリーの声「この最古の国日本に、最も若いアメリカが挑戦するのだ」
ペリーがばっと手を前に振りかざし
ペリー「全艦隊、隊列を組み前進せよ。急ぐ必要はない。堂々と行軍するのだ」
真っ黒な船体。
巨大な船体が通過していくと、すぐさまもう一隻が続く。
通過し終えるとまた次の一隻が通過。
旗艦『ポーハタン』
蒸気船『サスケハナ』
蒸気船『ミシシッピー』
『マセドニアン』
『ヴァンダリア』
『サザンプトン』
『レキシントン』
『サプライ』
(『サラトガ』はまだ来ていない)
全艦隊8隻が江戸湾を進行していく。

 

 

 

【849】第4話 A1 『ペリー再航』≫

○江戸
富士山を望む冬の江戸の町。
うっすら雪化粧をしている。
初詣に行く人々。
凧揚げや羽子板をしている子供たち。
正月の風景。

 

○江戸城・外観
門には巨大な門松が立っている。
『嘉永7年(西暦1854年)1月11日』

 

○同・大広間
大勢の大名諸侯が集まっている。
上座に老中陣。
中央に海防参与の斉昭、両脇に阿部と牧野、その両側に乗全と忠優。
下座の中央の空間通路をはさんだ両端に諸侯・江戸詰の家老たち。
両脇の最前列左側に松平慶永の顔。
最前列右側には井伊直弼の顔。
阿部「まさに国家の一大事である。此度のメリケン国からの国書に対していかにして応ずるか。通達は幕閣・御一門はもちろん、全国諸侯、はては一般大衆へも通達を出した。忌憚なく意見を述べてほしい」
静まり返る場。
斉昭、うぉほんと咳払いをして
斉昭「海防参与として発言する。外夷は再三の警告にも従わず我が国に土足で足を踏み入れ、しかもこの江戸表ののど元まで不埒にも侵入してきた。しかもあまつさえ大砲にて恫喝してきよった。そのような侮辱を受けながら、どうして黙っておられようか。ここは断じて我々日本人は脅しには屈しない、その不屈の闘志を見せつけねばならぬ。いよいよ戦の一字を決め全国に大号令を発するのじゃ」
『おお、そうじゃそうじゃ』『目にもの見せてくれる』『一刀両断じゃ』という賛成の興奮したつぶやき。
慶永「まさに戦意が高揚致しますな、ご老公」
斉昭「うむ」
満足げな斉昭。
斉昭「国書には両国が往来すれば大利益にもつながる、とある。もってのほかである。江戸開府以来全国を支えてきたのは倹約の倫理である。倹約こそ慎ましやかな国民性をはぐくみ、社会を安定させてきた柱である。貿易はこれをかく乱し富の流出を招くものである。通商などもっての外である」
忠優「・・・」
発言権の失ったままの忠優、無表情。
フンという顔で忠優を見る斉昭。

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【848】第3話 D4 『忠優の胸中は』≫

○寺・外観(夜)
半月に雲がかかる薄暗い夜。

 

○同・堂内(夜)
薄暗い室内。
瞑想する忠優。
その脇に一本の蝋燭。
その火が忠優を照らし、影がゆらゆらと揺れ動いている。
外からはフクロウの声などがしている。
忠優の幻影。
幻影「御老公を幕閣に参加させるなど我は反対だ」
声「忠優殿」
別の幻影。
幻影「衆評については我も譲れないところがある」
声「なにー」
かっと見開かれる目。
居合から抜き放たれる刀身。
その幻影が逆袈裟に斬られ真っ二つになる。
振り抜かれた忠優の姿。
一振りし、鞘に納める。
忠優「・・・」
無表情の中にどこか悔しさの感情が入り混じる。
再び居合で剣を振る忠優。
ゆらゆらと動く忠優の影。

 

 

 

【847】第3話 D3 『ペリーが再航を早めた理由』≫

○香港・全景
コロニアル風の洋館が立ち並んでいる。

 

○洋館・外観
建物群の中の中心にある洋館。
ジャーディンマセソン社の看板。

 

○洋館・一室
外灘が一望できる一室。
ペリーとウィリアム・ジャーディンが座っている。
参謀長のアダムスとコンティ大尉が立っている。
ペリー「その後、ロシアのプチャーチンの状況はいかがですかな」
ジャーディン「現在上海に補給のため寄港しているようです。我らジャーディンマセソンの情報によると、どうやらロシアも国書を日本側に受領させたとのこと」
アダムス「なんと」
ジャーディン「おそらくまたすぐに日本に向かうことでしょう」
ペリー「むおう」
アダムス「提督、こうしてはいられません。我らが付けた先鞭をロシアにさらわれることになります」
机に指でトントンと叩き考え込むペリー。
そこへノックの音。
声「私です。ケズウィックです」
ジャーディン「待っていたぞ。入れ」
入ってくるウィリアム・ケズウィック(20)。
ジャーディン「これは私の姪の子でウィリアム・ケズウィックです」
皆と握手するケズウィック。
ケズウィック「最新の情報です。ペリー提督は先日お会いしたそうですね、フランスのド・ブールブロン公使とド・モンラヴェル提督と」
ペリー「ああ、奥方がアメリカ人の」
ケズウィック「先週P&Oの郵便船が来航してから、すぐ行先も告げずに艦隊もろともいなくなってしまいました。何が起きてると思います?」
ペリー「?」

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【846】第3話 D2 『西郷吉之助』≫

○桜島(夕)
夕日に照らされる桜島。

 

○武家屋敷・表(夕)
籠から降りる足。
降りてきたのは斉彬。
側には3人の従者達。
斉彬「ここか」
従者「は」

 

○武家屋敷・庭(夕)
広い道場とその前に広い庭が広がる。
庭には立木がいくつもさしてあり、数十人の若者が立木に向かって剣を振るっている。
示現流の独特の稽古。
きえーとの叫び声とともに剣を強烈に打ち付けている。
有馬新七(27)や有村俊斎(22)が若者たちの脇を回って指導をしている。
有馬「おら、気合が足らんぞ、気合が。示現流に二の太刀はなか。一撃じゃ。一撃に全てを込める。一振り一振りに気を込めんか」
きえーとひときわ大きな声で稽古する若者達。
建物の縁側には4人の男たち、西郷隆盛(25)や大久保利通(23)、吉井友実(25)、伊地知正治(25)が座っている。
西郷は後ろ姿。
吉井「それにしても、我らが殿・薩摩守斉彬候がお国に戻られてすでに半年。前回のお国入りは藩主にお成りあそばされて初めてのお国入りじゃっどん、様子見というのは分かりもすが、もう今回は満を持してでごわす」
伊地知「そうじゃ、高崎崩れで処罰された者の恩赦、いいかげん出されてもよき時期じゃ」
捕縛されていく図。
N「高崎崩れ。前藩主・島津斉興の後継者として側室お由羅の子・島津久光を藩主にしようとする一派と嫡子・島津斉彬の藩主襲封を願う家臣の対立によって起こされたお家騒動で、斉彬派は4名の切腹をはじめ50名もの藩士に厳しい処分が下され、自栽した者も多数出た事件のことである」

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【845】第3話 D1 『島津斉彬、登場』≫

○薩摩・桜島
青い空。
青い空を覆い隠す噴煙。
豪快にその噴煙を上げている桜島。

 

○丘
桜島を望む高台を駆け抜ける早馬。

 

○集成館・外観
海に面した鹿児島市磯地区。
西洋式の建物が建っている。
早馬が入っていく。

 

○浜辺の射撃場
射撃をしている男。
使いの者が報告をしている。
使い「申し上げます。8月29日付で願い出ていた大船建造の解禁の議でございまするが、9月15日、正式に解禁が決定。我が藩の建造も許可された由にございます。また越前藩主・松平慶永公より『一刻も早いご上府を』とのことでございます」
射撃の男、ライフルを発射する。
的に命中するが、中心からははずれている。
射撃男「照準がまだまだ甘いな」
ばっと振り向いた男、島津斉彬(44)。
『島津斉彬』
斉彬「遠路、ご苦労。付いてまいれ」
使いの者と伴を連れて浜辺を歩く斉彬。
前方にくぼみがあり、そこから下を見下ろす。
使い「こ、これは」

 

○ドッグ
そのくぼみは造船のドッグとなっていた。
すでに大船は建造に着手され、船底が姿を現しつつあった。
驚いている使いをよそに
家老「殿と阿部殿は親しい。殿はすでに阿部殿から大船建造解禁の旨を聞かされ、すでに動いておられたのだ」
使い「さ、さすがはわが殿。ははー」
膝をつき礼をとる使い。
斉彬「ご苦労だが休憩したのちすぐに江戸へ飛んでくれ、『了解した。この斉彬、蒸気船をもこの1年で建造し、幕府に献上つかまつる』とな」
にやりとする斉彬。
N「島津斉彬、この時44歳。薩摩藩第11代藩主で、藩の富国強兵に成功した幕末随一の名君と謳われる。藩主に就任するや、洋式造船、反射炉・溶鉱炉の建設、地雷・水雷・ガラス・ガス灯の製造などの近代化を推進すると共に、西郷隆盛ら明治時代を築くことになる人材を育て上げたこともその功績の一つと言える人物である」
斉彬の自信に満ち満ちた顔。
噴煙を上げる雄大な桜島。
N「そして、忠優が幕政が根本から覆ると述べるほど唯一警戒する人物であった」

 

 

 

【844】第3話 C4 『それぞれの陣営にて』≫

○井伊家・茶室・外観
声「やったか」

 

○同・茶室内
直弼と長野主膳が茶をたてている。
長野「はい。伊賀が売国するといううわさ、早速問題となり、御老公が詰問、慶永ら大名を含めて全員から総攻撃を受けたとのこと」
直弼「おまえの戦略がいつもながら見事とはいえこうも見事にうまくいくとはな。案外わしもやつらを買いかぶりすぎていたかもしれん」
長野「たしかにそうですな。伊賀守が自ら火に油を注ぐような言動をした、とのことですから、動揺した挙句に我を忘れるような小物にございましょう」
直弼「うむ。とにかくこれで水戸と伊賀の亀裂は決定的になった。もう一息じゃな」
不敵に笑う直弼、優雅に茶を飲む。

 

○水戸家・応接間
斉昭、慶永、慶勝、宗城がいる。
慶永「それにしても伊賀守はひどいもんでござるな」
斉昭「もう奴の話はいいわ」
宗城「それはそうと、大船建造解禁が正式に決まったとのこと。それは親藩・譜代だけでなく、外様も対象でよろしいのか」
斉昭「ああ、実は外様を対象に入れるのも奴は反対しよった」
慶勝「ことごとく敵にまわりますな、伊賀は」
慶永「ともかく、外様も解禁になるということは、一刻もはやくあの方にもご報告をせねばなるまいな」

(さらに…)

【843】第3話 C3 『孤立無援』≫

○江戸城・外観

 

○同・廊下
忠優が廊下を歩いている。
すれ違う大名たちの冷たい視線。
ひそひそ話をしている者。
忠優「?」
気にせず歩く忠優。

 

○同・大広間
阿部ら老中陣、斉昭や斉昭派の慶永・徳川慶勝・伊達宗城ら大名勢もいる。
がやがやと話し声がうるさい。
忠優が入ってくるや話し声がピタッと止まる。
忠優に集中する視線。
忠優「・・・」
なんだ?という表情。
上座に歩いていくがその際も冷たい目線が注がれ続ける。
老中の定位置に座る忠優。
阿部「それでは全員そろったので、御親藩はじめ近しい方々に閣議決定のご報告を申し上げますが・・・」
斉昭「ちょっと待った」
斉昭の憤まんやるかたない顔。
斉昭「実に不快な話を聞いた。まずその真意を確認したい」
阿部「御老公」
たしなめようとする阿部。
斉昭「いや、報告する決定事項やこれから決めようとすることの前提さえ覆す重大なことだ。今すぐここで確認する」
忠優をにらむ斉昭。
斉昭「伊賀」
無表情に斉昭を見る忠優。
斉昭「そこもとは嘘つきの小悪人か、それとも国を売る大悪人か」

(さらに…)

【842】第3話 C2 『お台場にて』≫

○御殿山
八つ山を切り崩して品川沖に台場を建設している。
大勢の人足と多数の船や建築資材でごった返している。
忠優と井戸、江川英龍が話している。
『江川英龍』
忠優「順調のようだな」
江川「はい。何せペルリが再来するまで一年とないのですから。突貫工事です。ですが・・・」
表情の曇る江川。
忠優「ああ。分かっている。このままではだめなのだな。作っても意味はないと」
江川「はい・・・」
忠優も表情が曇る。
遠くで指示を出している堀が見える。
忠優「あの男はどうだ」
江川「堀ですか。さすが伊勢守様のお眼鏡にかなうだけの男ではありますな。昌平黌上がりなだけに知力は折り紙付き。それにあのがたいですから馬力もある」
忠優「なるほど。あやつは一人ですべて完結する力がある。オロシア国が今長崎に来ておる。おそらくすぐに堀は蝦夷に派遣し北方の守りについてもらうこととなろう」
江川「となるとやはり・・・」
忠優「そうだな。オロシアについても国書は受領することになる」
井戸「御前!」

(さらに…)

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